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来年の干支は兎さん

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 干支の兎は穏やかで温厚な性質から家内安全や、跳躍する姿から飛躍・向上を象徴する物として大切にされて来たうさぎさん。

  結構以前に「私、お嫁に行くから誰かうさぎさん貰って欲しいの~名前はハッピーで雄なの」と言って誰彼構わずお願いしていた知人がいた。
 誰も首を縦に振らない。
 飼い方も分からないだろうし、皆仕事が忙しくお世話する時間などない事もわかる。
 いつの間にかその知人は私の前に来ていた。
 
「○○さ~ん お願い~可愛いのよ 一年半一緒に暮らしていたんだけど」

 うさぎは可愛いけど、私はうさぎをお世話した事がないから躊躇していた、けど~うさぎが欲しかった心が勝ってしまった結果は

「いいですよ」

 言ってしまった、口が私の意思と離れて動いてしまった。

「明日連れてくるね」

 その後の会話やうさぎがどうやって来たのかも思いだせない。
 記憶の中のハッピーはいつも私の傍らに佇み、目覚ましが鳴る寸前にピヨ~ンと私のお腹の辺りに飛び乗り、私は グェッ と飛び起きる毎日をすごしていた。
 お出かけはダボダボの上着の中、知らない人が見たら妊娠8ケ月のお腹を両手で支えて歩いている様に見えただろう。
 時折私の顔のすぐ下にうさぎの顔がある時等は、すれ違う人の目が驚いた様に大きく見開かれていた事を思い出す。
 記憶は途切れて実家でも一緒に生活、父のお座部がお気に入りになってしまい、イヤー父にベッタリくっ付いている。
 嫉妬の嵐が来た~ そうかいそうかい、私ではなくそっちがいいのかい と少しひねくれモードになっていたが、夜のお休みは何時も一緒で幸せ~。
 お外でのお散歩も嬉しそう、夕方捕まえるのが大変、中々捕まりたくないハッピーさま、捕まえられるかなーと思うと横にぴょん、空中で行きたい方向へ上半身を捻る事を勉強した私は、30分程の追いかけっこの末に息をはずませてハッピーは腕の中、予測する私の運動神経はこうして培われた。
 秋になりお月さまが丸く成り出した、ハッピーは頻繁に土を両足で叩く様になってソワソワしている。
 ターンターン、ハッピーの足音は遠く迄響いて聞こえて行く。
 そしてハッピーは眠っていない、床をターンターンと後ろ足で叩く頻度が増して行った。
 昼間のお散歩の最中に茂みの中に野ウサギの顔が見えた。
 その日は満月、抱きかかえていたハッピーを地面に降ろした。

 実家はド田舎の山の中、回りには沢山の野性動物が暮らしている所、見えないけどヒョイヒョイと動物の姿が目の前を横切っていた。

 降ろされたハッピーはポンポンと野兎のほうへ、立ち止まり私を見上げる、とんとんと茂みの野兎に向かいながら、私を振り返り思案している風な後ろ姿に感じたのは、気のせいかしら ?

 ハッピーとのお別れは静かにとても早く感じられたが、彼女さんが出来たのね、幸せなのかな ? 幸せだよね、いつでも戻って来ていいのよ、そんな思いにすがりながらハッピーを見送った。

 これが最後のハッピーとの時間だった。
 
 そらから何十年経っただろうか、冬になると実家の家の周りにはうさぎの足跡が数えきれない程現在も付いている。
 ハッピーは赤い目をしていた、野兎は赤い目をしているのだろうか ? と今も想う。
 
 

 

 

#エッセイ

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