したたかな人々
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台詞を忘れてしまった。
とある農村で野武士の襲来を恐れて農民は村を守る為に7人の侍を雇う事にした。
此処まで話すと何の話なのか分かる方は多いと推測してしまう程、超有名な映画【黒澤明・七人の侍】私は未だにこの映画を超える物は出来ていない(自分目線で)と思っている、時折テレビ等で時代劇を目にすると農民の肌は艶々としており、衣服等も真新しい物に汚れを付けている事を見てしまうのは私だけなのかしら~と一人首を振ってしまう。
七人の侍の中の農民達はしたたかに、危険が及びそうになると一目散に逃げて行く事さえ表現されて、目はチロッと様子を伺い、良い方へすかさず考えを翻して、それは裏切りでは無く、生きて行くしたたかさが伝わって来る。
今日来れる ? 友からのラインを見つめる、短い文章、短か過ぎますよ~要件はなんなのか ? 触りだけでも書いて欲しいものだわね~。
30分以内に到着しますと打ち込み送信、時刻は8時10分、制作に取り掛かったばかりなので直ぐ終わらせたかった。
「薪が余っているから買って欲しいと言ってしつこいのよ、仕方が無いから三千円で薪ストーブの木を買ったのよ、その人いつも下ネタばかり話していて私嫌なのよ」
「一トン車サラッと一台位なの ? 」
「分らない、その位だと思うわ」
取り留めもなく話す事30分程でトヨタのサニーらしき車(車の車種等分からない私(笑))がウインカーを上げて入って来た。
「来た来た 薪を積んで来たわ エーッ 何処に薪があるの ? 」
背丈は160㎝もない、平べったい顔はニコニコ笑顔、履き古した革靴は至る所が擦れて傷が付き紺色の作業ズボンは膝の辺りがボコンと膨らみ長年着古している、上着も又同じく10年は着ているだろう、衣服は薪を車に積み込んだ時に付いた物だろう、埃を叩けばバフバフ煙が出そうである。
その汚れも振り払わずに玄関からすんなりと家の中へ入って来た。
「何処に薪を降ろせばいいだろうか ? 」
そう言いながら、今積んで来た薪はたいそう質が良く囲っていたから良く燃える、併せて大きな物はマサカリで割っているから手が掛からないと自慢をしている。
ペタペタと歯切れ悪く、併せて取り留めなく話し続ける。
木を降ろした所に行って見た。
割られた木々は20㎝から30㎝ほどでバラバラ、大きさもまばらで切り口にはアオカビらしき物がびっしりと付いている、本数にして100本あるかなしである、これで三千円はぼったくりではないだろうか ?
友もそう思ったらしく
「もう一台で三千円ね 此処に積んでいる木はこの高さ迄あって一万円なのよ」
指を指され積み上げられた40㎝程の長さの木々達は高さ2メートル程、長さ3メートル程もある。
見上げた70歳位の男性は目が僅かに泳いで、もう一台持って来る事を承諾して車が見えなくなった。
暫くして車は戻り男性は薪を全て降ろして、玄関から身体に付いた埃も払わずに入って来てにこやかに、自分の持って来たタキ木は質が良いと自慢をしている。
女性一人とたかを括って舌なめずりしている様に見える、私はこの事で呼ばれたのかしら、と心は上目使い。
ペタペタと ミ の音階の声は取り留めもなく焚き木の自慢をして三千円を受け取り、領収書を請求されて驚いている。
私がおトイレに行っている間に男性は座っていた。
私の亡き父は「やまご」(山子、北海道では山に入り木を伐る事を業とする人の事を云う)をしていた為に私は、ある程度山の木々に付いての浅い知識がある。
「wwwのお宅で10トンダンプに一台で三万でしたよ」
私は口火を切った。
「それは安いわ~そんなにあるなら二年間買わなくてもいいわね」
彼女はその安さに驚き、男性は一瞬固まっていたが事の詳細を聞いてきた。
「良くは分からないんですけど以前働いていた所の社長のお宅で、物凄い木の多さに驚いて聞いたんです、これ幾らしたんですか ? と聞くと三万円と言っていたのでびっくりしたんです」
「それはビックリだな~」男性はそう言うと千円を彼女に戻した。
10分程の話しは盛り上がり、男性は車で帰宅して行った。
「本当は五万円なんだけどねハハハハ~ おまけに原木のままだったわ、嘘ついてしまったわ~もう燃えてしまっているしここから50キロ以上も離れた場所の話しだからね~少し話しを盛ってしまったわ」
彼女は呆気にとられた様に目を丸くして笑い転げている。
「一件落着したから私は帰るね」
彼女は「この紋所が目に入らぬか」と言いながら笑っている。
シメシメと思っていただろう男性は、私の出現でもくろみ外れてしまったかしらね~
・・・私が居なければあの男性は彼女と楽しくお話し2時間位は居座って(聞こえが悪いわね)充実した午前を過ごして居たかも知れない。
寒い北の地域ではこの様な事が沢山ある、彼女にご主人がまだ健在ならこの様な事はなかっただろうな~
11時30分東西南北鮮やかに晴れ渡っている。