雨の夜の離脱。【1作目】「短編」
深夜2時半、外はまだ雨が降っている。
目の前に僕がいる。
どこまでも飛んで行けそうな浮遊感と、
地面に引き付けるような気怠さが共存している。
この体なら自由になれる気がした。
家族はぐっすり寝ている。僕だけの世界に感じる。
初めて壁から外に出てみた。
歩行者はいない。雨も僕を通り過ぎていく。
雨が跳ねる夜の街を散歩することにした。
幼い頃に遊んだ公園、通っていた学校。
当てもなく歩いているつもりでも、
やっぱり見知った道を巡ってしまう。
新しいマンション、駄菓子屋があった空き地。
懐かしさと恐怖に押し潰されそうになる。
逃れるようにいつもの歩道橋に向かった。
濡れたビニール傘が、歩道橋の柵に引っかかっている。
折れている癖に小間は綺麗なままだ。
この傘は、僕と似ている。
見かけは虚勢を張っているが、
芯の部分が耐えきれなくなって折れてしまった。
当然、今まで出来てたことも出来なくなる。
自分の存在理由もわからなくなる。
そして誰からも必要とされなくなって
ここに放置されたんだろう。
いつまでも続く闇に、2人で佇んでいる。
車が走る大通りをただ見つめ続ける。
水滴の着いたビニールに、反射する光たち。
隙間を抜けていく風と車の影。
感じられる全てが、どうしようもなく綺麗だ。
いっその事、もう消えてなくなりたい。
僕は柵に足を掛け、そのままの勢いで
飛び降りた。
何度こうして来たのだろう。
僕だけがあの日を何度も繰り返している。
結局僕は自由になれなかった。
深夜2時半、外はまだ雨が降っている。
目の前に僕がいる。
また僕がここに来ることを、
遺影の中で待っている。