見出し画像

【ネタバレなし感想】『Chants of Sennaar』  珠玉の珍翻訳のフルコースも愛しい 言語と断絶を超える 美しいパズルの旅

はじめに


あまりに久々のnote浮上。
突発パパッとかんたんゲーム感想記事です。

先日のセール時に購入し
時空が歪んだ20時間ほど
遊び倒して大満足の『Chants of Sennaar』を
自分なりに簡単に絶賛して
おすすめしておくだけの記事となります。


納得の圧倒的好評 
言語解読パズルゲーム『Chants of Sennaar』



Steamストアページはこちら↓

Nintendoストア紹介動画はこちら↓


言語解読パズルゲームの楽しさ


言語の苦痛なき天国



実際の外国語(または自国の古代言語)
学習と研究の経験は、ややもすれば
屈辱感と挫折感にまみれた
長く苦しい修行になりかねません。

話者が生きている現代言語ならば
己のみ言葉不自由の疎外感と惨めさに
打ちひしがれ、

話者が生きていないの言語ならば、
ただでさえぶつかっているだけで
血だらけになる難解な内容なのに、
正解など分かりやしない難解な内容を泳いで
何かを掴もうと血だらけになるための
入り口がまず賽の河原の煉獄だったり。

が、しかし。
完成度の高い言語解読パズルゲームは
滅茶苦茶に楽しいのであります。

そこに絹を裂くようなマンドラゴラの
阿鼻叫喚の苦しみはなく、
只々楽しい楽しいユレイカの喜びのみ。

芸術的にまで見事なデフォルメによって、
言葉を解する喜びのエッセンスだけ
構造的に抽出加工され、
まるでイクラや蟹味噌の夢の食べ放題に
好きなだけ溺れていいような、
そんな背徳感マシマシの贅沢の
楽しみと相成ります。


珍回答が生まれる訳


個人的に毎回言語解読ゲームで
大いに楽しめたピンポイントな点は
十人十色に生み出される
解読過程において発生する
珍回答の数々です。

「なんで珍回答が生まれるの?」というと
言語解読ゲームの基本システムであり、
醍醐味でもある「仮当てメモ入力機能」が
あるためです。

たとえば、ゲーム中人物が
時計を指さして「$#Q」と一語を
発してきたら、一語しかないということで
「時間(or現在時刻)」または「時計」を
意味する単語なのかな、と自然に考えます。
そこで「$#Q」に対応するゲーム内メモに
「時計or時間?」と自由入力するとします。

すると、次に別のシチュエーションで
「$#Q」が登場するフレーズと出会えば
既出単語についての意味内容推測を借りて
次なる内容解読に進んでいけます。

もしも、次に会った別の人物が
「$#Q(時計or時間?) *% |v」と
6時を告げる時計を指さすところを見たら、
「$#Q」はほぼ「時間」と確定できるし、
「*%」と「|v」は片方Be動詞的なもので
もう片方「6時」だろうと推測が立ちます。

全く意味不明に見える言葉の羅列が
自分自身の推測で作られていくメモで
答え合わせを経て、少しずつ
理解可能な意味に置き換わっていく過程が
非常に達成感をもたらすと同時に

……プレイヤー自身の迷ひらめきによって
さらに意味不明の怪文書を広げていくのも
また大いに爆笑を引き起こすという意味で
最高に楽しめる個性化体験です。

「鶏ガラは罠」事件


余談ですが
筆者が言語解読パズルゲームで有名な
『7Days to End with You』を初プレイ時
まじめにコツコツと解読メモを
積み上げてきた努力の結晶が

とある緊迫した場面で剣幕となった人物達が
「……骨の出汁コーヒー……?」
「おお、骨の出汁コーヒー……!」
「骨の出汁……!!!」

とテンション高めに繰り返し
叫び合う珍場面を
作ってしまう前科があります。

……鶏骨としょうがとかネギと
コトコト煮ればゼラチンと旨味が
溶け出したあれを
ナツメグとかカルダモンみたいなノリで??
コーヒーに?? ええ!?

――って、んなわけあるかあああ!
  やっちまってるわ……!!!笑

こうなってしまうと
もう何もかも入ってこず
シリアスクラッシャーで腹筋崩壊です。
もちろん犯人はほかでもない
自分自身です。ぐぬぬぎゃふん

以降、この事件は
「鶏ガラ事件」と命名され、
筆者の言語解読ゲームにおける
個人的トラウマであると同時に
求めて止まない旨味となりました。


鶏ガラ事件再び大量発生

タイトル画像回収です。

「鶏ガラ」の轍は繰り返すまいと誓った
筆者は、今回は真面目に
『Chants of Sennaar』の謎に挑みます。

しかしやはり優れた言語解読パズルゲームは
骨の出汁スープの旨味が満載で
記録を取らずにいたのが悔やまれるほど
数え切れないの珍回答を
生み出してきました。

喜びと爆笑の連続なので、
好きな方にはぜひご自身で手塩をかけて
思い出になる立派なイミフ畑を
咲かせてほしいと思います。


タイトル画像のぷち解説ですが、
『Chants of Sennaar』では、
プレイヤーが単語に推測メモを入れると、
本来の言語で
書かれた文章(=白地の吹き出し)の上に
各単語に対応する推測メモの内容に
置き換わった現時点の
解読文(=黒地の吹き出し)が
表示されます。

架空言語の元会話文=白地の吹き出し
メモを反映した解読結果=黒地の吹き出し

黒地の解読文吹き出しにおいて、
プレイヤーがメモを入れていない単語は、
「……」と表示されます。

筆者はたまたまコントローラをつないで
プレイしていたので、入力効率を考え、
ノリで英語と雑ローマ字
メモを取ることにしてしまったのが災いして


とても……よさそうな何かがあるみたい……(´ω`;)

「YOSASOU VERY……YOSASOU」なども
序の口と言える、とかく横隔膜に頻繁に
バイブレーションをかけるタイプの
迷文を量産するハメになりました。

……楽しい冒険でした。
英語と雑ローマ字は混ぜるな危険と
証明済みですので
是非参考にやらかしてみてください

感想とネタバレなしレビュー


ゲームプレイと基本の流れ


このゲームのジャンルは、
カジュアル謎解きだと思います。
16~20時間程度のボリューム感です。

俯瞰視点気味のFIXカメラの箱庭ワールドを
順番に(塔の上を目指して)探索し、
言葉を解読することで得た情報をヒントに
軽めの謎解きで進んでいくのが
基本の流れです。


言語解読パズルとして特徴的な点は、
『Return of the Obra Dinn』と連想させる
「全問正解アンロック」システムです。

関連性の高い3~4の単語が、
システム上グループにまとめられ、
解答単位となります。

これらの言葉グループは
下記のように推測ノート画面において
同じページに、イラスト付きで
まとめられています。



答え合わせの穴埋め問題


ひとつのグループ(1ページ分)の
イラストと対応単語の穴埋め問題に
全正解できれば、
「アンロック成功」判定となり、
以降、当てはめ正解の言葉の本当の正解が、
ノートの推測メモを上書きして
会話時に表示されます(黒地吹き出し)。

このシステムに賛否がありますが、
また後述します。


バトルはありません。
ジャンプ操作もなく移動に終始するので
いわゆるアクション要素は一切ない
考えていただいても問題ないと
思います。

若干分類が微妙なところですが、
ステルス遊びが時折出てきます。
ただこれもアクションというより
移動順番、路線を計画する謎解きですから
アクションではないのですが、
ほんの少し操作タイミングを
問われる部分があります。
(ゲームの主軸を考えると
 ステルス遊びの必然性はないのですが)

極端にアクションが苦手だ、
と迷う方がいれば、
一個人の意見として
なんとなく参考にしてみてください。

おすすめのところ


システム:

前述の通り、
言語解読パズルの醍醐味
ふんだんに楽しめる見事な設計が
素晴らしいゲームになっています。

言葉を出される順番や数、
解き明かす難易度の絶妙なさじ加減、

各種言語をデフォルメ、ブレンドさせ、
遊びと世界観に落とし込む
優れたセンス、

これらの相乗効果により、
ワクワクが終始途絶えない上質な
ゲーム体験を作り上げられたと思います。


芸術点

音楽、SE、カメラワーク、
アートワーク
すべてが
世界観にマッチしていて美しい

各階層の世界観を構成する
要素のかけ算が特にハイセンスで、
階層間の緩急や変化の計算も最高です。

学も教養も足りていないので
語彙が少ない感じの感想で恐縮ですが
「へえ、あれっぽい場所で
 あれっぽい感じの住民なんだ!
 そんであれみたいなずらしを入れて
 ああいう要素と合わせるんだ
 デフォルメ元の言葉のチョイスも分かる!
 超超超おしゃれやん! ほえー」
みたいな感動がどの階層にもありました。

言語や文化、歴史などの教養が
あればあるほど楽しめるし、
先入観や知識を持たず
純粋な感性で触れるのもまた楽しい
デザインが細部まで施されていると
言えるでしょう。

気になるところ


個人的にトータルで振り返ると
あまり減点はありませんが、

強いて言えば下記2点が気になります。

1.導線不足と感じる詰みポイントがある

基本的には難易度がカジュアル寄りで
気持ちよくどんどん進んでいける
バランスです。
謎解きとか次にやるべきことも
その場その場でぱっと見でピンとくるような
ナラティブ設計ですが、
数カ所ピンときづらい遊びがありました。

プレイスキルと経験からの勘の違いで
人によってはどこでひっかかるかが
変わってきます。

個人的に詰んだ、詰みかけた箇所は
下記のタイプがありました。
とはいえ2割ほどです。

・やってほしいことの
 具体的条件が分かりづらい/
 不必要に時間がかかった

・手に入れたアイテムの使い道/使う場所が
 分からなかった/誤解した

・目指す/目指すべき場所がマップ上で
 盲点/死角になりやすく見つからない


2.穴埋め正解後、会話が「処理」される

「ゲームプレイと基本の流れ」で紹介した
「全問正解アンロック」システムのことです。

ひとつのグループの言葉と意味の
当てはめに全正解すると、

以降、
それまではプレイヤーの
単語ごとの推測メモ内容を表示していた
黒地吹き出しの中身が、
正解を元に意訳された文章になります。

たとえば、
穴埋め問題前に、
各単語の推測メモがそこそこ合っている場合、
黒地吹き出しが
「わたし 複数形 つくる 草」のような
内容だとします。

この4語の穴埋め問題が発生し、
正解すると、
単語ごとの推測メモを順に並べただけの
片言が修正されてしまい、
「私たちは植物を栽培していますわ」
というような具合に意訳されます。

穴埋め問題の正解は不可逆で、
正解すると元の推測メモが消されるため、
元の状態を表示させることは不可能です。

もちろん人間味とか交流している感は
増したかもしれませんが、
ゲーム的に致命的なのは、
語と意味の対応関係が意訳によって
一気に崩されてしまうことです。

言語解読ゲームにおいて何よりも
語と意味の対応関係が理解の土台であり、
次に進むための手がかりです。

特にこのゲームにおいて、
神話を共有しているものの
言語と文化がバラバラに分断された
各階層の住民の言葉を翻訳する作業が
ゲームプレイの一部ですから尚更です。

正解する度、反って
築き上げてきた単語単位の
「推定意味」と「記号」との対応関係を
否応なしに消されると、
かなりモチベーションが削がれます。

特に文が複雑になったり、
そもそも語順が馴染みある
SVOやSOVではない場合、
必要になった場面で
意訳されてしまった文を参考に
対応関係を割り出すのが
不必要に時間がかかるので、
気持ちの問題だけでなく、
ゲームプレイ上でもストレス要素でした。

これは自らに生み出されし
意味不明怪文書沼に遭難して
進行不能になるプレイヤーが出ないように、
ゲーム進行をサポートする/制御するため
判断かもしれませんが、
せめて正解後にも元の推測メモが見れるよう
2ビューの間の切り替え機能がほしいと
思いました。

おわりに


勢い任せのまとめとなりましたが、
なんとなく購入の参考になれば幸いです。

ネタバレなしでふわり書きますが、

「バベルの塔」にインスパイアされたという
作品ではありますが、実際のところ、
まったく陳腐さを感じさせない切り口の
新解釈が一貫してシステムにもデザインにも
見事に浸透されており、
分断を乗り越えて」という
テーマも相まって、
表現の芸術的完成度、感動体験の完成度が
とにかく頭を抜けています。

特に世界観における分断の理由や、
分断を乗り越える統合に至る際の
視点というか見え方の変化
の表現と演出が
秀逸であり、見物です。
多くの人たちが口を揃えて
「知っておきたい」「やらなきゃ損」
などとベタなおすすめ文句が言いたくなる
作品であることは間違いなしです。

いいなと思ったら応援しよう!

カピ子
お読みくださりありがとうございました☘️🌈 初めての方、あなたに出会えて嬉しく思います。フォロワーの方、いつも見守ってくださってありがとうございます。 共感できるところや、心の琴線に触れるところがありましたら、ぜひ応援の気持ちを届けてください。心が温まります❤️🌟