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東京芸術劇場で見た『アルルの女』松重豊と藤井咲有里の複数役演じ分けがすごかった

1時間前に見たばっかりなので、取り急ぎの投稿。この公演「東京芸術劇場コンサートオペラvol.8 ビゼー/劇音楽『アルルの女』 プーランク/オペラ『人間の声』」は本日1月8日14時からのみ、夜公演すらない一回きりの公演である。カメラは入っていなかったので、映像配信もないかもしれない。でも俳優陣の演技力がとにかくすごかった。
僕にはオーケストラの演奏を批評できるクラシックの素養がないのだが、そういう僕のような観客でも、というかどんなアホにも分かるくらいわかりやすく、この公演の松重豊と藤井咲有里の「複数演じ分け」の声の演技力はすごかったと思う。終演後の観客はロビーでみんなそのことを話していた。特に藤井咲有里の「ヴィヴェット/フレデリックの母」という二役、初老の母と少女と言っていいような2人を演じ分ける声の切り替えは、騒然と言っていいくらい話題だったと思う。
舞台に最初出てくるのはまず松重豊さんで、その次に藤井咲有里さんが登場した時、僕は思わずパンフレットを見て役名と名前を確認してしまった。このnoteでも以前の観劇で藤井さんのことを書いているけど、全然イメージが違ったからである。これまでのイメージは痩せた鋭い感じの顔だったけど、舞台に出てきたのは遠目には少し黒木華っぽい感じの丸顔の、二十代にしか見えない若い女優に見えた。しかもヴィヴェットの台詞を言うと声が僕の知っている藤井咲有里の声と全然ちがうのである。さすがにこれは別人かも、何かの理由で急遽降板で代役の女優が出てきて、あとで説明があるのだろうか?と思っていたら、そのあとでフレデリックの母に一人二役できりかわった瞬間に驚いてオペラグラスを取り出した。同じ人間から出てくるとは思えないくらい、20歳から50歳くらいまで声が変化したからである。
クラシックやオペラの観客は文化的でマナーがいいので、めったなことでは公演中に私語を発してヒソヒソやることをしない。でも、マスクをしたまま客席のあちこちで観客が隣の観客と目を合わせたり、首を振って感銘をあらわしたり、パンフレットを開いて俳優の名前を確認したりという動きがあちこちで起こったので、相当なインパクトを客席が走っているのはわかった。僕もオペラグラスでもう一度ヴィヴェット・フレデリック母役の顔をよくよく確認すると、確かに(少し輪郭線がやわらかになった?)藤井咲有里の面影がある。マジかよ。人間の声はこんなに切り替わるものなのか。しかもヴィヴェットを演じるときの表情は少女のように明るく、老いた母を演じるときは口角が下がり、疲れた中年女性の表情に変わるのである。
最初に書いたようにこの公演は本日一回きりの公演で、これを読んだ人が見に行って確認するとか、テレビ放送で見ると言うことができない。(終演後にスタッフに聞いたらCDが出る可能性はあるということ)なので「ガラスの仮面じゃあるまいしそんなに変わるわけないだろ、盛ってんじゃないの」と言われても映像を出すことができない。ただ、今日の公演というのはたくさんの人が見ていたわけだし、東京芸術劇場でやるくらいなので劇評家も見ていたはずである。なので、俳優陣の演技力、演じ分けの力というのは口伝えに広がるのではないかと思う。
藤井咲有里の二役の対比が160kmの速球と真下に落ちるフォークくらい鮮烈だったので、終演後の観客はその話題で持ちきりだったが、いったい何役演じたのかわからないくらい演じ分けた松重豊の多彩な変化球もすごかったと思う。
藤井咲有里という俳優は野田秀樹の舞台に何度も出演したり、今回にしても松重豊とならんで東京芸術劇場の一発勝負に呼ばれたりするのだから実力があるのは演劇ファンから見れば当たり前なのかもしれないが、こんなにすごいとは思わなかったいうのが正直な気持ち。
こういうの、テレビカメラ入れてBS放送したらものすごい反響だと思うんだけどなあ。観劇直後の走り書きみたいなレポートだけど、まずはここまで。いずれたくさんの人が知ることになる素晴らしい俳優だと思います。

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