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強制冤罪/植え付けられた罪悪感と虚偽記憶
「はい…私が人を殺しました」
そう男は細々と自供を始めた。
男は人を殺した。
それも単にムカついたからという身勝手な理由で。
無差別に人を殺したあげく、自首してきた。
男は人を殺めた一挙手一投足を説明し、自供はある意味、完璧だった。
迷宮入りしかけていた事件は解決に向かうように思われた。
がーーーーーーーーー
「アリバイ?」
「ああ、やつには完璧なアリバイがあったんだ」
「いや、なんかの間違いじゃないですか? 自分で自首して自供しているのに…あれが嘘だと?」
「いや。嘘じゃない。検査等でも嘘の自白ではないと証明されている」
現代は冤罪防止のためという名目で、重要な自白には真贋判定が行われる。
いわゆる嘘発見器だ。
嘘の供述は生体反応で弾かれる。
「じゃあ、」
「やつは本当の記憶だと思っているのさ」
「え?」
「最近は脳に記憶を埋め込めるのは知っているだろう?」
「ああ。そういえば」
「え、じゃあ。あいつの記憶は」
「ああ。おそらく誰かに植え付けられたんじゃないかと思うな」
埋め込まれた記憶は脳に焼き付く。
記憶とはデータのように整理整頓されて記録されているわけではない。
想起のたびに記憶は新たに想像・創造されるのだ。
だからもはや、本人にとってそれが本当かウソかはわかりようがない。
幼い頃の記憶が本当に会ったかどうかわからなくとも妙にリアリティだけを感じて、あったと思ってしまうようなものだ。
「じゃあ、あいつは」
「事件とは無関係な、ただの一般人だと思われる」
「どうするんですか? アリバイがあるけど自供されてるんですよ」
「我々が無罪を主張することになるとはな・・・」
「やれやれ、今回はちゃんとしたアリバイがあったからいいものを、それがなかったら冤罪ーー」
「警部! 大変です…!」
「ん? どうした?」
「例の殺人事件の件ですが…」
「ああ、いまその話をしていた例の犯人は犯人じゃ、」
「いえ。真犯人だという男が名乗り出てきました」
「なに?
「それも大量に…ああ、いまもまだ自白の連絡が届き続けています」