死後の伝言 / もしこれを君が見ているということは
これを君が見ているということはおそらく私は生きてはいないのだろう。
まさか自分がいわゆる不治の病になるだろうとは思っても見なかった。
しかも遺伝性のものだ。
すでに成人済みの身体はその時限爆弾を抱えた細胞で出来ている。
現代の医療ではどうしようもない。
しかし、一つ可能性が見えたんだ。
この遺伝性の疾患は、いまでは生前治療を行えるものだった。
生まれる前にその発症の元となる遺伝子を取り除く。そうすればその子供は少なくともその時限爆弾を抱えたままに生きることはない。
わかっている。その治療はあくまでもまだ小さな胎児の段階ならば可能なもの。大人の人間に対しては行うことが出来ない治療だ。
そこで私が着目したのはクローン技術だ。
私の遺伝子を元にしたクローン。
もちろん生前治療を加えた遺伝子のだ。
それに乗り換えることで私は生きながられることができるのではないか? と考えた。
促進培養で大人のボディを用意して、脳をそっくり入れ替えれば私は健康な体を持つことができる!
私は私財をはたいて実現に向けて動いた。
カネだけはあまるほどにあったからね。
そして、完成したんだ。私の新たな肉体が。
人知れず、私の邸宅の地下に専用の施設を用意した。
私は死ぬ。
しかし、それは新たな生の始まりなんだ。
悲しむことはない。おそらく数日中に新たな身体を得て、君の前に現れるから。
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「これだけですか?」
「ええ、原型をとどめていたのはこの記憶ディスクだけでした」
「不幸な事故でした」
「そうですかーー」
「ーーあの人も家も、すべて火事で灰になってしまったんですね」