
無垢な赤子の価値の暴落/超少子高齢化時代のバブルゲーム
「なんて可愛らしい子だろう」
「ええ、世界で一番可愛いわ」
そう夫婦でわが子を褒める。
それは自らの子供を授かった夫婦によくある、といえばある光景だろう。
しかし、その夫婦は赤子を抱いてもいない。
二人が見つめるのはわが子の写真が映った携帯端末だ。
そこにはわが子の写真とともに数値とグラフが映っていた。
そしてそのグラフは右肩上がりに上がっていた。
「ぐんぐん伸びているなぁ…やっぱりコンテストで入賞したのが効いたな」
「ええ、ほらどんどんオファーが来て、それがPRになってもっともっと上がっていくわ」
それはわが子の所謂、ギャランティだった。
超少子高齢化が進んだこの国では小さな子供は当然ながら少ない
そして、本当の赤子は稀少な存在だ。
需要と供給の結果、子役のモデル料や出演料のほうが年上のベテランのほうが高いなどは普通になった。
中でもほんとうに一時しかない「赤ん坊」時代の出演料は桁違いに上がった。
昔の様に記念で「出演させてもらう」ような価値観はない。
どうにかして稀少な姿で「出ていただく」。それが今の姿勢だった。
そして、短い期間しかない赤ん坊時代にすべてのオファーを受けられるわけもなく、より条件の良い――高額なオファー合戦となっているのだ。
大人よりも子供。
子供よりも赤ん坊。
うまくいけば一般的な大人が成人してから稼ぐ生涯年収よりも赤ん坊のワンシーンが高いことすらある。
「はは! 生まれてすぐにここまで親孝行してくれるなんてな」
「本当…とっても嬉し、」
夫婦が笑いあっている中、急にグラフが暴落した。
ガクンと。
一気に下降し、そのまま取引無効が表示された。
戸惑う両親のもとに一本の連絡が入った。
「そんな!! そんな勝手があるか! おれがこいつにどれだけ投資したと思っているんだ! こんだけ仕込んでようやく回収できるとおもったのに…!」
夫の怒鳴り声に対して通話先の声は淡々と告げた。
『申し訳ありません。高額なオファーが飛び交う子役の扱いが人身売買に抵触するとの批判がありまして…国と業界団体の取り決めで、未成年に対してのオファーが禁止になったのです』
「じゃあ、この子の出演は・・・出演料は?!」
『まだオファー段階でしたので、すべて無効です』
そう告げて、通話が切れた。
うなだれる夫婦。
放心状態だった夫婦は、しばらくして視線をスマホの画面から移し、部屋の隅のベッドで寝るわが子へ向けながら言った。
「あれ、どうしようか」