白は善で黒は悪と誰が決めた?/善悪の彼岸
「お困りですか?」
初老の老人は、同じく初老のーーそしてやつれた老人に話しかけた。
やつれた老人は街道の端っこに座り込んできた。
有り体に言えば浮浪者だ。
しかし、この街では珍しい。
そのあたりを見回してもこの男以外にはいない。
そこそこの人通りのある街中。
通りすがる人たちはやつれた老人を無視して、日常を過ごしていた。
だが、初老の老人は人々が路傍の石と思っていた存在に話しかけていた。
急に街中の小石に話しかける者がいたらギョッとするだろう。
それと同じように周囲の人達は声かける老人をも胡乱な目で見つめていた。
しかし、老紳士は周りの視線を気にもかけず、浮浪者に手を貸した。
人気の少ない公園のベンチまで連れて行くと老紳士は、老いた浮浪者に水とわずかな食べ物を渡した。
「いいんですかい?」
「もちろん」
「ですが私は⋯⋯」
「✗✗なのでしょう? でもそれは関係ありません」
✗✗とはある人種[カテゴリ]を指す。そしてこの国では忌み嫌われた人種[カテゴリ]だった。
ある人は✗✗を劣ったカテゴリとみなした。
ある者は✗✗をこの国から追放しようと叫んだ。
ある一群は✗✗たちはこの国を乗っ取ろうとしていると危機感を煽った。
✗✗は差別され、侮蔑され、この国では悪のレッテルを貼られ、迫害されていた。
「私の旧くからの友人も✗✗でした」
そう老人は告げた。
「✗✗だから悪人というわけではありません。しかし、友人はそういう妄執に駆られた人たちに追い詰められ、命を絶ちました。
「それは⋯⋯ひどい」
「だから✗✗というだけで悪だと判断するのは馬鹿げていると思い知っています。きっとお辛い思いをしたでしょう。あの時友人を助けられなかった慰めとして、少しばかり手を貸したくなったのです」
「⋯⋯ありがとうございます」
「ここなら人もあまりいませんから、安心して食べてください」
「本当にありがとうございます⋯⋯これでしばらくはなんとかなりそうです」
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「⋯⋯お人好しがいてくれて助かった」
浮浪者は助けてくれた男を手に掛けると、慣れた手つきで動かなくなった男を物陰に隠した。
「✗✗だから悪いってわけではない。確かにその通りさ。でも✗✗全員があんたの友人のようにいい人ってわけでもない。弱者が全員善人なわけがない」
金目になりそうなものをくすねるとそそくさとその場を男は立ち去っていく。
一瞬振り向いて、返事を返せない男に言葉をかけた。
「人助けは、人を選んだほうがいい」