食べていい肉は低知能に限る/食べるのは可哀想?ある食肉店の仕入先
うちは代々の肉屋だ。
ひいひいひい爺さんから爺さんから食肉店をやっている。
スーパーやらコンビニやらいろんな業態が商売敵になったがなんとかやってきた。
が、最近はそういったこととは違う厄介事がある。
肉屋が肉を売るのは当然だろう?
しかし、それに文句をつける輩がいるってんだから世の中も変わったもんだ。
当たり前だが牛肉、豚肉、鶏肉あたりが主な食用肉だが、
それを売るなってんだ。
なぜかって?
「頭が良い」からだそうだ。
ほら。イルカやクジラの肉を拒否する奴らは昔からいただろう?
最初は環境保護とか動物愛護とかあったが、そのうちに「知性の高い」動物は食べちゃいけないという思想になっていった。
牛も豚もむかしから食べていた食用動物も、ちゃんと調べたら頭が良かったらしい。
いや、そんなことは牧畜をしている奴らは知っているよ。
それに俺等は別に頭が悪いからそいつらを食べていたわけでもない。
が、そういうややこしいことが流行して、商売がやりにくくなったんだよ。
なんせ、「牛肉 100g 〇〇円」「豚肉 100g 〇〇円」とか書いていると「野蛮だ」なんだと文句やクレームが来るんだ。
しかたなく店頭のポップには「牛」や「豚」という名前を書けなくなっちまった。
「これは豚肉かい?」
「まぁそうかもしれないね」
客に聞かれてもそんな曖昧な答えをいわなくちゃならないんだ。
客も客でトラブルを避けるため、値段と見た目でなんとなく買い物をしないといけない。
食べちゃいけないと掲げるのがトレンドでも、みんな肉は食いたいんだ。
うまいんだから。
むかし坊さんが獣肉を食べるのを禁止されてウサギを鳥とみなして食っていた、みたいな与太話があるが、あれをさらにイジくりまわしたような話だろう。
知能の高い動物の肉は食うな。
賢い動物には尊厳を。
代わりに植物由来の培養肉を食べましょうって。
俺にはただ大企業の商品を押し売るキャンペーンにしか思えないが、一部のバカどもは本当にその言い分を信じて「脱肉」を掲げている。
いや、本当に脱肉を実践するだけながらまだマシだろう。
それを他人に強要し、商売を邪魔をしてくるってんだからタチが悪い。
最近も店に押しかけ、なんの権利もないのに「肉を食うな」「虐待をやめろ」と叫んで営業妨害どころか、店を潰そうとしやがった。
何を考えているんだか。いや、なにも自分の頭で考えていないのだろう。
「なぁ、店長。あのスミの肉はなんだい?」
「ああ、あれか」
客がショーケースの端においてある肉を指さした。
「なんか珍しい肉かい? 牛とも豚とも違うだろう? ジビエかい? それにしては安いな」
「ああ、あれかい?」
最近仕入れた肉だ。
たくさんある。
「頭の悪い生き物の肉だよ」