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田舎暮らしと死んだ目の都会人 / 歪んた認知の根源

「へぇ、旦那さんはここに最近移り住んだんですか」

「ええ」

そう旅行者の男はペンションのオーナーに聞いた。

「もともとこの辺に住んでいたんですか?」

「いえいえ、都会暮らしでサラリーマンだったんですよ」

「へぇ、奥さんがこっちの人とか?」

「いえいえ、まったく。旅行でここを訪れたときに、ここだ! と思ってペンションを始めようと思ったんですよ」

聞くと、都会での日々に嫌気がさしていたらしい。

「満員電車に乗っていて思いませんか? みな、無表情で死んだ目をしながら、同じように電車に乗り、会社へ向かう。

そして、会社で誰でもできる仕事をして、また満員電車に揺られる。会社の人たちの目も、同じでしたよ。ビジネス街に会社がありましたが、みな、一様にスーツを着て、同じ目をしていました。

ある時、ぼくはここが養豚場や養鶏場じゃないかと思いました。それで、嫌気がさして、飛び出してたまたま訪れたのがここでした」

そう、男は熱弁する。

「ここには生きている人がいました。本当の意味で。みなが助け合い、管理されることも、することもなく、自由に、目をキラキラさせて生きているんですよ」

そう男は語った。

「ああ。都会からきた人にする話じゃないですよね。すみません」

「いえいえ、とても興味深かったですよ。それにとてもいいところのようですし」

「でしょう! せめてここにいる時は楽しんでください!」


ーーーーーーーーーー  一年後

「おや、ここにあったペンションは?」

男が再び、その土地を訪れるとそこは更地となっていた。

「オーナーと知り合いだったのかい?」

「知り合いというか、一度泊まったことがあったもので」

近くに住んでいるだろう老人が、思い出したように教えてくれた。

「ペンションのオーナーなら、ここは偽物だ! みんな目が死んでいる! とかいってどこかへいってしまったよ」

「なんとまぁ」

「いつも都会の良さを語って愚痴っていたからね。田舎暮らしが合わなかったんじゃないかな」


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