最悪な名医 / いいことだけをいう医者と泣き縋る患者
「そりゃひどい・・・医者の風上にも置けないな・・・!」
「はい。私の話を全然聞いてくれなくて」
そういって患者はこれまで医者や病院から受けてきた仕打ちを説明してきた。
「彼らは私を見捨てました。誰も私を救ってくれないのです。私の苦しみをわかってくれない」
彼女の病に寄り添いもせず、ただ無機質な治療だけを押し付けた。
彼女が説明を求めても、理由のわからない言葉で喋り続けるだけ。
助かりますか? という問いには わかりません、としか答えてくれない。
これが標準的な医療です、と杓子定規な治療しかしない。
患者という個人を見ない。
薬漬けの毎日。
手術は必ず成功しますか? と聞いても、最善を尽くします、としかいってくれない。
成功しても数年後の生存率は●%です、と無慈悲な数値を伝えてくる。
「なるほど。それはとてもお辛かったですね。でもここではそういった治療はしていません」
そう壮年の医師は穏やかな笑みを迎えながら言う。
「エビデンスやなんだと彼らは言いますが、患者に寄り添うとかを考えない。彼らは薬漬け・手術漬けにして医療費をふんだくるだけの詐欺師のような輩です。
本当に人を救おうとする人が、人を理解しないでどうするんですか?」
「もし私に任せてくれるならば、あんたを救うことができるかもしれません」
「本当ですか⋯? でも担当医はもう寛解は難しいと、」
「それは彼らの治療なら、ですよ。普通の医療だから。私はこの道のプロとして多くの人を救ってきました。だから大丈夫です。
あなたのような状態から多くの患者がしっかりと治りましたから」
「ありがとうございます。わたしーー信じてみます・・・・!!」
そうして患者は涙ながらに感動し、帰っていった。
それから数ヶ月、彼女は治療をやめ、信じた医師が進めた食事療法と治療を続け、特効薬というクスリを毎日を飲み続けた。
そしてさらに数カ月後ーーやせ細ったカラダで
「大丈夫、これからよくなるから」
と力なく答え、
その翌日、亡くなった。
彼女が呑んでいたクスリは、ただの砂糖菓子だった。