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幸田露伴のおとぎ話「烏と鶏との間の雛の話」

烏と鶏との間の雛の話

 昔、一群の鶏がある森の茂みに中に住んでいましたが、狸の為に攻め亡ぼされて雌鶏だけがただ一つ残りました。その後、烏が一羽来てこの雌鶏の夫になりましたが、間もなく子供が出来て、その子が次第に成長すると、その鳴き声が大層変なので、父の烏がこのようにして鳴くんだよと鳴き声を教えましたが、その子の鳴き声は烏のようにならなくて、母の鶏もこのようにして鳴くんだよと自分で鳴いて教えましたが、どうしてもその子は鶏のように鳴けない、父はカアカアと鳴き、母はコケッコウと歌うのに、その子は、カアッコウ、コケッカアコケッカアなどと鳴いて、どちらの声も正しく出せないので、父の烏はガッカリして、一つの歌を作った。

 この雛は誰の雛ぞやこの雛は、我がものとしも思い得ぬ雛
 ちちのみの父は野そだち、ははそばの母は庭鳥、この雛は、烏羽の黒くもあらぬ羽もちて、庭鳥の赤き冠も頂かず、言さへぐ烏ならむか、さにあらず、鶏なるか、さにもあらじ、
 父の声真似んとすれば母の声あり、母の声真似んとすれば父の声あり、母の声にも父の声にも、あらざる声やこの雛の声、
 庭鳥の言葉も成さず、野烏の言葉も成さぬこの雛は、誰の雛ぞやあわれこの雛。

 父の烏も母の鶏も大層哀れに思ったが、遂に雛をどうしてやることもできなかったとか、まことに悲しい物語です。
(明治二十五年七月)

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