［35］エール

沿道の声援浴びて走る夜
虫時雨と
車の流れと

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毎日の散歩中、
片方の耳にイヤホンをつける。
朗読や語りを聞きながら生活音を楽しむ。
周囲に敏感すぎる私には
これがちょうど心地よい。

毎晩散歩に出かける幹線道路沿いにも、
小さな田んぼや畑がある。
その側を通るとき、
秋の風情を吹き飛ばす虫の音の元気さに、
慌ててイヤホンのボリュームを上げる。

夏の終わりごろ
遠慮がちに始まった虫の演奏も、
稲が頭を垂れる今では
毎晩堂々たる合奏だ。

一方で、
この幹線道路は自動車の交通量も多い。
自動車がたて続けに走り抜けるとき、
その走行音のために、
やはりイヤホンのボリュームを上げる。

そして、はたと気付く。
虫の音と自動車の走行音、
ほとんど同じ音量なのではないかと。

右からは虫のブラスバンド、
左からは車の応援団。
両側からの応援を受けながら
そのアーチの中を歩く。
歩道の消失点を見つめながら。

イヤホンはもう、外していた。

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