暴力クレーマーを勇者としてかっこよく討伐した話 【前編】

そいつは昼下がりのお食事時も過ぎたころ、特になんの前兆もなくふらっと現れた。                                齢恐らく70~80。無駄に原色に近い赤の服と何十年使ってんだ、ってツッコミたくなるようなヨレヨレを越してヘナヘナな帽子をかぶっていた。

まずそいつは店頭で呼び込みをやってくれていた、やたらへそと胸を出す服をよく着るバイトのアネキ的存在、通称「はるかさん(偽名)」に怒鳴った。

「くぁwせdrftgyふじこlp;」

まじで何を言ってるのかわからん。日本語を話しているのは、かろうじてつかめるが言語の形を成してない。猫の方がまだちゃんと「にゃー」と言語化できる声で鳴きやがる。

近くにいた僕は「あぁまたこれはやっかいそうなやつがきたな……しかもこいつ……しょっぱなから怒鳴り散らしてきやがる……やべぇな……」

と思いながら、この店には自分以外全員女性(いわゆるハーレムというやつですが女社会で男一人が生きていくのってなかなかに大変なんですよいやもうほんとに……)だから、何かあった時絶対に俺が守らんといかん。という心の準備をしながら、店長をいつでも呼べるようにしとくか……ということを考えていた。

僕の店では立地のせいもあってかちょくちょく文句を言ってくるお客さんがいる。しかしだいたいの人は怒っていても怒鳴るなんてことはなく、駄々をこねて返金を勝ち取るか、怒りながら帰っていくかのどちらかだ。

だから僕らバイトはすぐに店長(責任者)を出すのではなく、自分たちが対処できる範囲では対処してみて、ダメだったら店長を呼んで後はお願いする、という順序を踏む。

しかしこいつは今までのやつらとはレベルが違げぇ……一歩、いや、二歩先をいってやがる……

恐らくはるかさんもその異質さを肌で感じ取ったのだろう。おへそも委縮したのか服に隠れ、

「ちょっと待ってくださいね~~~~~」

と一言、一目散に店長に助けを求めにいった。

話を聞いた店長(超美人かつ可愛い。店長が美人だとバイト続く説唱えたい)が戦闘態勢を整えそいつと対峙する。

「どうされましたか?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

いやわからんわからん。まじでわからん。怒ってることしかわからん。店長めっちゃ真顔。びっくりするぐらい真顔。感情死んだよ。美人の真顔って真顔でも綺麗だなおい!!!

明らかにやばそうなやつだったからいつでも助けに入れるように店長の近くにいながら盗み聞いたところ、どうやら購入した商品がちゃんと動かないということに腹を立てているらしく、わざわざ鞄にも入れずその商品丸出しのまま手に携えてやってきたらしい。

しかしながら怒っているのはわかるが返金して欲しいのか、交換して欲しいのか、何を要求しているのかもわからず。とりあえず怒鳴り続けるために、店内にいた他のお客さんや道行く人をドン引かせ、ちょっとした注目を集める場となってしまっていた。

らちのあかない言い合い(店長よく会話できてるな……)。         怒鳴り続けるそいつ。                        負けじと凛とした姿勢を崩さない店長。


そしてそいつがとうとうキレた。

手に持っていた商品を店長の足元目掛けて当たる当たらないぐらいに思いっきり叩きつけたのだ。

これ以上は店長が危ない。

僕は考えるよりも先に動いた体を店長とそいつの間に挟み込み

「落ち着いてください」

とこれ以上店長に危険が及ばないように戦闘に参加した。

続く。


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