暴力クレーマーを勇者としてかっこよく討伐した話 【中編】

喧嘩なんてろくにしたことない。人を本気で殴ったこともない。友達と河川敷で友情を拳で確かめあったこともないし、ましてや親にすら殴られたこと……いや殴られたことあるな。(DVではないです。こちら100%の純度で悪いやつ)

そんな僕が怒りに任せて今にも暴力を振るってきそうなそいつの前に体を投げ出した。

「落ち着いてください」

そいつの前で手を広げ、凛とした声でそいつの前に立ちふさがった。

そいつは鼻息荒く興奮した様子を見せていたが、いきなり表れた男に怖気づいたのか特に何も言葉を発することなく、こちらを凝視。

しばし睨み合い。緊迫する現場。殴られたらどうしようと巡る思考。あれ、ちょっとかっこいいことできてんじゃね?と言ってくる脳内の俺!!!

沈黙が続き、現場の緊張度は一触即発。次にでる言葉、暴力、それが命運を分ける。そんな油断を許さない状況の中、あることに気づいた。


俺、めっっっっっっっっっっっっちゃ、膝、震えてる。

「あーーこれは縦揺れですねぇ」「震度は……6弱ぐらいでしょうか」

膝の上に日本国民が住んでいたらきっと地震ソムリエたちによってツイートされていたな。日本人地震起こったらとりあえずTwitter開く前に逃げな?あとFPSもちゃんとやめなね???

あ、なるほど。gkbrってまじで起こるんだぁ。へぇ~~。って思った。

しかしながらそんなことを相手に知られては舐められる。幸い今日はダボっとしたズボンを履いているおかげで、ズボンの空間を超えて振動しない。そいつにはもちろん、店長やバイトのお姉さま方にも知られない。よって膝が震えていることを知っているのは俺だけだからまだダサくない。いける、俺かっこいい(言い聞かせた)

ここまで約3秒。自分が怯えていることを客観的に把握しつつ、店長が

「もうお引き取りください」

とそいつに向かって発しているのでそれに連なるように

「もうお話できること何もないので、お帰りください」

とそいつに諭す。(なおこの間もぶるっぶるしてる)

それでもなお、きゃんきゃんそいつが吠え続けるのでらちが明かない。こちとらいつおしっこ漏れたらどうしよう、と最悪の想定までしているのに一向に終わる気配を見せない。

その間、怯えていることを自覚して、自分は何に対して恐怖を抱いているのか、何故、膝が震えるのか、どこに恐れを感じているのか。ということを頭のリソースを3割ほど割き、考えていた。

喧嘩慣れしていない、ということはもちろん。怒り、の感情を向けられることにストレスを感じるからだな、ということ。危害を加えられるかもしれない、ということ。

そんな事を考えている中で格闘家の人が喧嘩を売られても心を強く保てるのは「自分が本気を出したら、こいつをいつでも殺すことができるという自信。だから手を出さないし、何をされても怖くない」と考えるから、と言っていたことを思いだした。

では今の状況はどうだろう。格闘経験は全くないがそいつの身長はこちらより小さくガタイもどちらかと言えばひょろひょろしている。押したら倒れそうだし、確実にこちらの方が力があるだろう。

そこまで考えて、よし、こいつを殺そうと思えばいつでも殺せる。だから恐怖を感じる必要はない。大丈夫。俺、大丈夫だ。と自分に語りかけ、膝の震えを抑えようとしたとの瞬間、


奴の肩がピクっと動いた。




あ、漏れた。

続く。


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