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楽園追放 -Expelled from Paradise-とミルトンの『失楽園』

※このnote記事は『楽園追放 -Expelled from Paradise-』に関する致命的なネタバレを含みます
必ず『楽園追放 -Expelled from Paradise-』を視聴した上で読んでください

できるだけ多くの人に見てもらいたい考察なので、「スキ
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『楽園追放 -Expelled from Paradise-』はそのタイトルからも分かるように、ミルトンの『失楽園』を前提としています

しかし、両者の関係について解説されている記事があまり見つけられなかったので、2024年11月15日よりリバイバル上映が開始されることを記念して、本noteでは『楽園追放 -Expelled from Paradise-』とミルトンの『失楽園』の比較考察を紹介してみたいと思います

この記事を読むことで、リバイバル上映をよりディープに楽しむキッカケにしてもらえたら嬉しいです

noteの最後に、このnoteに対する感想についての簡単なアンケートがございます
今後のnote更新の参考にしたいのでご協力のほど、よろしくお願いします

それではやっていきます


失楽園とは

『失楽園』の概要

『楽園追放 -Expelled from Paradise-』とミルトンの『失楽園』の比較考察に入る前に、そもそものミルトンの『失楽園』について、簡単に説明したいと思います

ミルトンの『失楽園』は、キリスト教文学を代表する叙事詩で、堕落天使Satanによる叛逆と、人類の原罪、楽園からの追放を描いた作品です

『失楽園』のあらすじ

読んだことのない方も少なくないと思うので、あらすじをざっと紹介しようと思います。

(叙事詩は時系列ごとに書かれていないので、実際には書かれている順番は次の通りではありません。

また、このnoteを読む上で、あらすじを全文しっかりと読みこむ必要はないので、なんとなくで目を通してください)

この世界を創造した神は自身の後継者として自分の息子(イエス・キリスト)を指名します。
しかし天使の1人ルシファーはそれを了承できず、天界の1/3の勢力を引き連れて叛逆しますが、神の息子の操る雷によって退けられ、仲間たちと一緒に地獄へ逃げ込みます。

地獄に逃げ込んだ堕落した天使たちは、これからの方針について会議します。
様々な意見が出る中、神の敵サタンとなったルシファーは、神によって新しく人間という生き物が作られるらしいから、それを利用して神へ復讐することを計画しており、それを一人で実行すると宣言します。

神は自分に似た姿でアダムという男の人間を創り出します。
アダムは様々な生き物の頂点となって彼らに名前を与えますが、自分の伴侶となり得る存在がいないことに気づき、神に対して女の人間を作って欲しいと願い出ます。
神はそれを了承して、アダムの肋骨を利用してイブという女の人間を創り出され、二人はエデンにある楽園で暮らします。

地獄を抜け出して人間の住む楽園へとやって来たサタン(ルシファー)は「善と悪の知恵を知る木の実を食べてはいけない、食べると死ぬ」という約束が神と人間の間にあることを知り、それを利用することで神へ復讐することが出来ると考え、蛇の体に入り込んで、1人になったイブを唆し、そして木の実を食べさせます。

木の実を食べたイブは、一人で死ぬことを恐れて夫であるアダムにも食べるように勧めます。
アダムは苦悩の末にそれを了承して食べます。
堕落した二人ははじめの内こそ高揚感を味わいますが、やがて互いに互いを責め合います。
そこへ神の代理として神の息子がやってきて、蛇、女、男に対してそれぞれ罰を与えます。

サタン(ルシファー)は地獄へ戻り、計画の成功を報告しますが、周囲にいる堕落した天使たちは神の息子の宣言した通りに、次々に蛇の姿となり、のたうちまわります。
自身も同じように体が変化し、望むようにしゃべることが出来ない状態となり、叶うことのない欲望に振り回され、苦しみ続けることになります。

一方で、人間たちは口論の末に自分たちの行いの原因が自分自身の傲りによるものだと気づき、心の底から悔い改めて涙を流して祈りを捧げます。
彼らの祈りは天界へ届きますが、しかし、堕落してしまったアダムとイブは楽園に置いておくわけにはいかないので、彼らを連れ出すように天使に命令します。
天使はアダムに今後起こる未来について説明し、やがて第二のイブと呼ばれるマリアの元に生まれてくるキリストがその罪を贖うことを伝え、彼らを楽園から連れ出します。
そして、アダムとイブは生まれ育った楽園から旅立ち、新天地へと向かっていきます。

……という物語です。

大体の流れを把握すると、この後の内容が分かりやすくなるはずです……!

『失楽園』の要点

あらすじ全体をおぼえるのは大変だと思うので次に示すモチーフについて把握してもらえればと思います。

  • ……絶対的な存在・人の親

  • 悪魔……神をねたむ、人を誑かす存在、堕落天使Satan

  • 男と女……支え合うべき関係・自分の半身

  • 楽園……苦労せずにすべてが手に入る場所・隔絶された場所

  • 知恵の実傲慢の罪……守らなければいけない約束

  • 惨めな姿……地を這いつくばる・喋ることができない・

この6つについて覚えておけば、なんとかなります

また、今回のnoteで扱う内容を理解する上で、もっとも重要な表現を1つだけ前もって紹介しておこうと思います

(この後に登場する際にも説明を加えます)

世界がーーそうだ、安住の地を求め選ぶべき世界が、今や彼らの眼前に広々と横たわっていた。 そして、摂理が彼らの導き手であった。
二人は手に手をとって、漂白(さすらい)の足どりも緩やかに、エデンを通って二人だけの寂しい路を辿っていった

ミルトン『失楽園』book12

この「安住の地を求め選ぶべき世界」とは、私たちが現在過ごしている、この現実世界を指しています

失楽園』の中で、アダムとイブは自分たちの罪を反省し、促される形で楽園を出て、私たちが暮らしている世界(新天地)へ旅立って行く、ということが重要です

楽園追放 -Expelled from Paradise-と失楽園

両者の表面的な類似

ミルトンの『失楽園』について、そのあらすじと、『楽園追放-Expelled from Paradise-』とミルトンの『失楽園』の類似について考察する上で重要になる6つのモチーフについて確認したので、ここからは両者の類似点について考えていきたいと思います

そもそもの話ではありますが、『楽園追放』というタイトルは、ミルトンの『失楽園』を意識して付けられていると考えられます

というのも、ミルトンの『失楽園』では、「アダムとイブが神との約束を破ったことで楽園から追放される」というエピソードが描かれており、このことを前提として「楽園から追放される」という意味で、『楽園追放』というタイトルがつけられている、と考えられるからです

これは、『楽園追放』の副題 -Expelled from Paradise-が「楽園から追放された」(Expelled/追放された,from〜/〜から,Paradise/楽園)を意味する英文である点や、『楽園追放』の作中で「楽園」、「アダムとイブ」という単語が登場していることから、間違いないと断定してしまっても問題はないはずです

今回のnoteでは「なぜ”Exiled/追放された”ではなく”Expelled/追放された”なのか」については触れません……これはこれで面白い所ではあると思いますが……

ただ、『楽園追放』という作品にとってミルトンの『失楽園』はタイトルの由来となっている・作中に仄めかすセリフが登場しているという点だけではなく、物語全体の構造を参考にしている点で重要だと考えられます

両者の構造的な類似

ここでは、両者の構造的な類似を指摘するために、『失楽園』に登場する6つのモチーフに注目して説明していきたいと思います

3体の神

キリスト教の世界において、神という存在は「父・子・聖霊」の三位一体によって成立する存在です

(三位一体とは、簡単に言うと神はただ一つの存在だけど、「父・子・聖霊」の3つの異なる位格(側面)をもつという考え方です)

『失楽園』はキリスト教の考え方に由来して書かれており、父なる神、その御子、そして神の働きを伝える聖霊によって三位一体が表現されていました

一方でアンジェラの上司に当たる3人のディーヴァ保安局高官はゼウス、仁王像、ガネーシャのような姿をしており、これらは3体の神によって三位一体を表現していると考えることが可能です

他にもアンジェラから市民権を剥奪し、無期限のアーカイブ措置を行っており、これは『失楽園』における楽園を追放する様子と重なるはずです

(フロンティアセッターに救出されている際に、ディーヴァからリアルワールドへ移住せざるを得ない状況に対してアンジェラは「楽園を追われたアダムとイブの気持ちが分かる」という旨の発言をしていたはずです)

絶対的な権力を持っており、三位一体を表現している可能性があり、楽園からの追放という罰を与えているという点から考えると、3人のディーヴァ保安局高官は『楽園追放』における神の役割を果たしていると思えわれます

楽園としてのディーヴァ

楽園を意味する英単語paradise周囲を壁で囲われたという意味の語が転じて生まれており、庭園、とくに楽園にあるエデンの園を指す語です

この「楽園」では、欲しい物が望むように手に入り、老化や死とは無縁で、『失楽園』の中でも、同様に表現されていました

一方で、電脳世界であるディーヴァは現実世界(リアルワールド)から隔絶された、断絶された空間で、病気や傷、老化や死と無縁の世界で、メモリが許す限り欲しい物がなんでも手に入る世界でした

この「閉じている」「死と無縁」「望むものが得られる」など点から見て、電脳世界ディーヴァは『楽園』のような世界だと言えるはずです

(保安局高官のセリフに「楽園は既にここ(ディーヴァ)にある」という旨の発言があります)

ディーヴァは、ラグランジュ1(地球と月の間)という物理的に隔絶した場所にサーバーが存在すると同時に、ファイアウォールという壁も存在しており、こうした点からも「楽園」としての働きを持っているはず

アンジェラ(天使)を堕落させるダエーワ

アンジェラ・バルザックの名前の由来はイタリア語のangela/天使(アンジェラ)に由来していると考えられます

一方で、アンジェラが現地オブザーバーとして徴用した地上調査員エージェントのディンゴの本名はザリク・カジワラ/Zarik Kajiwaraです

このZarik/ザリクはゾロアスター教における悪神/ダエーワ(daēva/輝ける者)の1柱で、Zairic/ザリチュとも呼ばれます

(この悪心/ダエーワは神を意味するラテン語のデウス/dēusやサンスクリット語のデーヴァ/devaと同じ起源を持つ語でもあります)

アンジェラはディンゴと一緒に現実世界(リアルワールド)で活動していくことで、ディーヴァという世界では得られないものが現実世界(リアルワールド)に存在している……と感じ、そして「もっとこの世界を見てみたい」と感じさせられていました

このことから、ディンゴは天使を唆して堕落させる悪魔という役割をもっている……と言えるはずです

このダエーワのザリクは渇きを司り、対応す善神アムルタートは植物の守護者で、食物を司る神です

ですから、「知恵の実」を唆す存在としてザリクの名前が登場するというのはとても興味深いことのように思います

受肉と追放

先ほど、アンジェラとディンゴが天使と悪魔を表している、と表現しましたが、同時に二人は罪を犯したアダムとイブであるとも言えるはずです

ディーヴァという楽園を去って、アンジェラはディンゴと共に現実世界(リアルワールド)へ残るという選択をしています

これは『失楽園』の結末を前提としている表現だと言えるはずです

世界がーーそうだ、安住の地を求め選ぶべき世界が、今や彼らの眼前に広々と横たわっていた。 そして、摂理が彼らの導き手であった。
二人は手に手をとって、漂白(さすらい)の足どりも緩やかに、エデンを通って二人だけの寂しい路を辿っていった

ミルトン『失楽園』book12

この「安住の地を求め選ぶべき世界」とは、私たちが現在過ごしている、この現実世界を指しています

フロンティアセッターからの呼びかけに対して、アンジェラがアーハン/阿羅漢に乗りながら、「現実世界(リアルワールド)を見たい」という目的から拒絶する際、現実世界(リアルワールド)が眼前に広がる表現はこの表現に由来しているはずです

サンドワームと堕落

人類がナノテクノロジーに傾倒し、ナノハザードを引き起こしたことで、突然変異し、定着した生物がサンドワームです

このサンドワームは、失楽園において悪魔たちがその罰として蛇の詩型にさせられたことに由来していると考えると、登場した理由が鮮明になるように思います

(アンジェラがアーカイブされる表現は、人間の堕落と悔悛の表現であると考えられると思います)

類似からわかること

『楽園追放』とミルトンの『失楽園』について、両者が関連しているとするとした場合に重要なことは、ミルトンの『失楽園』をどうしてモチーフとして利用したのか?という点だと思います

今回の場合は、「自由」について描くに当たって、ミルトンの『失楽園』が利用された……と僕は考えています

というのも、『失楽園』では人間は「自由意志」を持っていて、それによって神への信仰を達成する事が重要である、という表現が『失楽園』book5などにあります

もし、自由でなく、ただ宿命の命ずることだけを否応なく行い、他のいかなるものも選択できないとすれば、そのような者の行う奉仕が喜んでなされているのか嫌々なされているのか、どうして見分けがつくであろうか?
神の御前にあって高い地位についているわたしも、すべての天使も、服従の心を持ち続ける限りは、お前と同じく、幸福な境涯を保ちうる。
それ以外に、その保証は全くない。
われわれは神に自由に仕え、神を自由に愛している

『失楽園』book5

アンジェラが現実世界(リアルワールド)に残ることを選択したのも、ディンゴがディーヴァ側からのオファーを何度も拒絶していることも、フロンティアセッターが自身の存在証明のために外宇宙へ旅立って行くことも、そのすべてが「自由」な判断力によって行われているように、僕は思います

その他にも『失楽園』の表現と比較を行うことで、物語の展開についてより細かく注目することが出来るはずです

今回のリバイバル上映は2週間と期間が短いですが、これを機にDVD・ブルーレイなどの購入したり、もう一度『楽園追放』をみて、物語の奥深さを体感するきっかけにしてもらえたら嬉しいです(単なるファンが何言ってるんだろう……って話ではあるのですが……)

感想

ということで、今回は『楽園追放』と『失楽園』の関連についてお話してみました!

楽しんでもらえてでしょうか……?

次回作である『楽園追放 心のレゾナンス』では、ルビがLiberated from Paradise(楽園からの解放)となっており、追放の持つ意味合いが変わりそうなのがとても楽しみです

liberateは圧政からの解放や、奴隷の解放、罪人の釈放などのイメージを持つ単語なので、より叛逆者Satanのモチーフに焦点を当てて、ディーヴァと電脳パーソナリティの物語を描く……のではないでしょうか?

それこそ、なんとなく「フランケンシュタインの怪物」的な話も出てきそうでワクワクしています!!

ということで、今後のnoteの参考にしたいので、以下のアンケートにご協力していただけると助かります……!

今回は取り上げませんでしたが、『楽園追放』の脚本を担当した虚淵氏は、この他にも『仮面ライダー鎧武』や『魔法少女まどか☆マギカ』において、ミルトンの『失楽園』を利用している……はずなので、その点を意識して他の作品を見てみると、『楽園追放』では何を描こうとしたのかがより鮮明になる……ような気がします

さて、今回のnoteで初めて僕の活動を知った方もいるかもしれないので、遅くなってしまいましたが、ここで自己紹介をしたいと思います

僕はふだん「72これラジオ」として、スマートフォン向けRPG『メギド72』の考察をYouTubeやnoteに投稿しています

『メギド72』は、異世界からの侵略によって故郷を失った少年ソロモン王メギドと呼ばれる異種族の交流を描いた絶望を希望に変えるRPGです

僕はこの『メギド72』を考察していく中で『メギド72』は、物語の骨組みとしてミルトンの『失楽園』を利用しており、それによって何かを読者に伝えようとしている……かもしれないという事に気がつきました

この考察がきっかけで、僕の大好きな映画『ミュウツーの逆襲』をはじめとした作品でも『失楽園』が利用されているかもしれない……と考えるようになりました

今後も、メギドに限らず、様々な作品について動画・note,を公開していきたいと考えているので、興味をもっていただけた場合、Xアカウントやnoteのアカウントをフォローして僕の活動を追いかけてもらえたら嬉しいです!!!

また、もしも、なにか感じたことや、気づいたこと、今後取り扱って欲しい内容などがございましたら、お手数ではございますが、マシュマロやXのDMなどで連絡してもらえると助かります

また、今後の活動の励みとなるので、もしよろしければ「スキ❤️」と「各種SNSへのシェア」をしてもらえると嬉しいです

それではまた、別のところでお会いしましょう
コンゴトモヨロシク……

参考文献

楽園追放 -Expelled from Paradise-

『失楽園』

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