おじさんとわたし8(変質者との遭遇)
春になり、夏がくると、虫や動物たちが活動しだすのと同じように、変態たちも湧きでてくる。
最近、変質者2名に遭遇した。
1人目は、飲み会の帰り道に会った。
同期が潰れてしまったので、私も限界ではあったが家まで送り届け(途中同期に肩を貸しながら道端でゲロを吐いた)、家に帰る道すがら、そいつは声をかけてきた。
ナンパかと思ったが、腕を掴まれ、タクシーに引き摺り込まれそうになった。
酔いがさーっと覚め、腕を振り払い逃げた。
途中また吐いた。
2人目は、仕事で遅くなった日の帰り道。
家の近くで声をかけられたが、明らかに様子がおかしく、何を話しているのか全く理解できない。薬でもやってんのかと思った。
怖いので、横断歩道が青になった瞬間、全力疾走してぶっちぎった。
次の日、筋肉痛になった。
昔も、変質者に遭遇したことがあった。
高校生の時。あれも春だった。
学校の帰り道。
身なりは普通の大学生くらいの人で、ニット帽と黒縁の眼鏡をかけていた。
太古の記憶なのによく覚えているあたり、相当怖かったのだと思う。
「駅までの道がわからないから教えて欲しい」
そう言われたので、口頭で説明すると
「よくわからないから近くまで案内して欲しい」
と言われた。
素直で親切な当時の私は、何の迷いもなく案内した。
駅までの道すがら、その男に色々と質問されたが内容は忘れた。
すると
何度か手が私のお尻に触れた。
気のせいかな?当たったのかな?
と思い、平静を装っていると
「面倒なこと頼んでごめんねー」
と言いながら、ぐっと身体をこちらに寄せてきた。
私はびっくりして反射的に反対側に避けたが、
今度は私の腰を掴み
「ごめんね、こっちの方から行かない?」
と、人通りのない路地の方に連れて行こうとした。
これヤバいやつだ!
と気づき、全力疾走で逃げた。
追いかけられて家の場所がバレるとまずいので、近所のコンビニに逃げ込んだ。
こういうとき、妙に頭が冴えるのはなぜだか不思議である。
震える手で携帯を取り出し(冗談抜きで本当に震えてた)、おじさんに電話をした。
男が追いかけて来ていないか警戒した。
「おじさん、すぐ来て。家の近くのコンビニにいるの。変な人にあったの」
「そこ動くんじゃねえぞ」
と言われ、ブチっと電話が切れた。
雑誌の棚の前でウロウロしながら、窓ガラス越しに外の様子を伺っていると
木刀を乗せて爆速で自転車をこぎながら
「大丈夫かぁ!!!!」
と叫んでいる男が来た。
叫んだ声は店内にいる私にも聞こえた。
わたしのおじさんだった。
安心して半べそかきながらコンビニから出て、歩きながら経緯を説明すると
「お前は先に家帰ってろ。俺は近所を見回ってくる」
そう言って木刀を担いだまま、自転車に乗って行ってしまった。
私としては家に入るまで一緒に来て欲しかったのだが、頭に血が上っていたおじさんはもういなくなっていた。
しばらくしておじさんが帰ってきて
「それらしい奴は見当たらなかった」
と言った。
それらしい奴がいたら、木刀で殴りかかっていたのだろうか…と今でも疑問である。
なぜ家に木刀があるのか?と思い、聞いたら「剣道部だからよ」と言っていた。
剣道部でもその年まで木刀を持ってる人はそうそういないと思う。
つくづく物持ちの良いじいさんである。
あの時、駆けつけてくれたおじさんを見て、とても安心した。
自分が手だけではなく歯も震えてカチカチ鳴っていたことにもおじさんを見てから気づいた。
姿を見せるだけで安心させる。
私のスーパーヒーローだ。
でも実は、新手の変質者が来たのかと思って一瞬身構えたのは秘密である。
そんな何億年も前の記憶をふと思い出した。
変質者2名との遭遇後。
数日経っておじさんに電話をし、
「また変なやつに会ったよ。
1人で対処できたけど」
と言ったら
「いつでも木刀持って駆けつけてやるよ」
と言った。
今は別々に住んでおり到着を待つまでの間にやられそうなので、護身術でも習おうかと思う。