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息尽かせぬ展開が見事なサスペンス映画『アイデンティティー』雨中のモーテルで11人が次々と殺されていく謎

解離性同一性障害のサスペンスもの。ヒッチコックの『サイコ』にオマージュ捧げつつ、豪雨で寂れたモーテルに閉じ込められる11人の男女が次々と殺されていく物語。わりと知る人ぞ知る人気がある作品。『インディー・ジョーンズ』最新作も手がける今や米映画界の名匠となったジェームズ・マンゴールド監督作(『17歳のカルテ』、『フォードvsフェラーリ』)。

なるほど、よく出来ているし、一気に引き込まれて見てしまった。ネタバレになってしまうので、あまり書くことはないが、豪雨の中でのドライブ、そして車のパンク、交通事故、血だらけでモーテルに運び込まれる妻、その再婚相手の夫と息子、さらに高慢な女優と運転手をしている元警官、護送中の囚人と警官、娼婦、新婚夫婦など次々の雨のモーテルに人が集まってきて、モーテルの主人も含めて事件がどんどん展開する。豪雨で電話も警察無線も繋がらない。閉ざされた空間。そして護送中の囚人が逃げ出して、彼が人を殺しているのかと思えば、その囚人も殺され、さらに死体と一緒に発見される部屋のキーの番号が10、9、8・・・とひとつずつ減っていく。誰が犯人なのか?一方で、最初からちょこっと描かれている多重人格の死刑囚マルコムの再審理の描写は何を意味するのか?死刑執行前夜の再審理とモーテルの連続殺人事件の関係は?さらにモーテルの現場の死体が次々と消えていく謎、元先住民族の墓場の怪奇現象なども示唆され、疑われていたモーテルの管理人の背後の冷蔵庫から凍った別の死体まで発見されるというめまぐるしい展開。観客は次々と起こる事件と訳が分からない謎に包まれながら、推移を見守っていくと意外なネタばらしがあり、さらに最後にもう一つドキッとする事件まで起きるのだ。

もう息をつかせない怒濤の展開。謎、謎、謎。サスペンスや恐怖というよりも、閉じ込められた空間での登場人物たちに次々と起こる展開の見事さに圧倒される。しかも、ちゃんと登場人物たちのキャラクターが描かれているところも見事だ。元刑事のジョン・キューザックの正義感と迷い、現役刑事レイ・リオッタとの主導権争い、売春婦演じるアマンダ・ピートとモーテルの主人ジョン・ホークスの差別的な男女のやり取り、無口な息子と再婚の夫ジョン・C・マッギンレーの生真面目キャラなどなど。人間模様としても面白く描かれている。

豪雨の中で寸断されたモーテルという空間を限定させて、ここまでの物語を展開させたところが成功した。脚本家のマイケル・クーニーという名前に見覚えがあり、つい最近、札幌で観た面白かった舞台の作品がマイケル・クーニーのものだったことを思い出した。札幌座「ブリテン罰符の錬金術」(シアターZOO)というお芝居だ。マイケル・クーニーの「Cash on Delivery」をもとに、札幌の劇団「ELEVEN NINES」の納谷真大氏が演出したもの。イギリス・ロンドン郊外を舞台にウソを駆使して社会保障手当を不正受給し、生計を立てていた男のドタバタ劇だ。ウソにウソが重ねられていき、家に次々とやってくる人たちを巻き込みながら、ウソを隠すためのウソに身動き取れなくなっていくドタバタの面白さは痛快だった。この映画もまた、人を次と次と巻き込んでいく展開が見事だと言えよう。

2003年製作/90分/PG12/アメリカ
原題:Identity
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

監督:ジェームズ・マンゴールド
製作:キャシー・コンラッド
製作総指揮:スチュアート・M・ベッサー
脚本:マイケル・クーニー
撮影:フェドン・パパマイケル
美術:マーク・フリードバーグ
編集:デビッド・ブレナー
音楽:アラン・シルベストリ
キャスト:ジョン・キューザック、レイ・リオッタ、アマンダ・ピート、ジョン・ホークス、アルフレッド・モリーナ、クレア・デュバル、ウィリアム・リー・スコット、プルイット・テイラー・ビンス

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