湯たんぽのプライドを守れ
子供を幼稚園へ送り届けてから、自宅へ戻り、昨晩ベッドの中に入れていた湯たんぽを取り出した。表面はまだほんのり温かい。キッチンへ行き、湯たんぽの蓋をあけ中のお湯を捨てながら、手でお湯の温度を確かめてみた。ぬるめのお風呂くらいの温度だった。
私は驚いた。昨日の夜入れたお湯がまだこんなにあったかいなんて。隣でインスタントコーヒーを入れている夫に言った。
「湯たんぽのお湯がまだあったかいよ。昨日の夜入れたのに。湯たんぽがすごいんかな、布団の保温性がすごいんかな、びっくりだね」
「熱湯入れたんだから、そんなもんでしょ」
「普通だったら、マグカップのお湯だったら10分もたたないうちに冷めて水になるのに、すごくない?」
「はぁ…まあねぇ…」
関心のない夫を放置して、私は湯たんぽを褒めた。
「すごいよー、さすがだよー、昔からあるものって違うよねぇ」
そして湯たんぽを乾かそうと本体と蓋、赤いカバーを丁寧にソファーに並べた。一晩中、人間の体温を守り続けた湯たんぽは激務を終えソファーでくつろいだ…ように見えた。
昼過ぎ子供が幼稚園から帰ってきた。すぐに「おやつー!」と言うだろうと思っていたら妙に静かだった。見るとリビングのソファーの前で呆然としていた。
「どうしたの?」
「…サンタさんの跡がある」
「サンタ?あぁ、この赤い袋?」
「うん」
娘は湯たんぽの赤いカバーをサンタのプレゼントの袋と思ったらしい。
「これ、湯たんぽの袋だよ」
「ゆたんこ?」
「湯たんぽ」
「ゆたんこ」
「湯たんぽ、ぽ」
「ゆたんこ」
歴史のある湯たんぽを″ゆたんこ″と言われると、本日の輝かしい湯たんぽの功績が一気に下がるような気がした。
「このフタはなに?」
「湯たんぽの蓋だよ」
「ゆたんこのフタ」
「湯たんぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽだよ」
「ぽ?ゆたん…ぽっ!」
「そう」
「ゆたんこ。これどうするん?」
ゆたんこ…。″おたんこなす″みたいな響きである。娘よ、湯たんぽの功績を一刀両断しちゃうんだね。ごめんね、湯たんぽ。
「お湯を入れるとあったかくなるんだよ」
「お湯を入れるとあったかくなるの??!」
「そう」
「ジョーって入れたらあったかくなるん?」
「そう」
「Oh!NOぉぉぉーーー‼︎」
娘は目を丸くして両手で頭を抱えて叫んだ。そのとき湯たんぽの輝きが復活した。これで娘も私と同じように湯たんぽを大切に扱ってくれるだろう。よかった、あぁ、よかった。
<湯たんぽの歴史>
中国では「湯婆」(tangpo)と称されていた。「婆」とは「妻」の意味であり、妻の代わりに抱いて暖を取ることを意味している。「湯婆」のみで湯たんぽを表すが、そのままでは意味が通じないために日本に入ってから「湯」が付け加えられ「湯湯婆」となったとされている。
ー引用ー
「"湯たんぽ"」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。(2021年12月19日更新)URL: http://ja.wikipedia.org/
最後になんちゃって川柳