【創作】まよなかのおとどけもの
「ピン、ポーン」
日付が変わる時間に、荷物が届いた。
「ここにサインか判子をお願いします」
配達員は帽子を深く被り、最後まで目を見せてくれなかった。
リビングで受け取った段ボールのガムテープを外す。何かの羽ばたく音が聞こえたと同時に、箱の中から一斉に数匹の蝶が飛んだ。蝶たちは、念のため開けておいた窓から暗闇に吸い込まれていった。
しばらく窓を眺め、蝶の気配がなくなったあと、段ボールの底に一通の手紙を見つけた。
封筒には鱗粉が付着していて少々不快だったが、手紙を読まないことには物語が始まらないと思い、仕方なく封筒を開けた。
手紙を読み終え、沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。失礼極まりない手紙だ。ここまで不愉快な手紙を私はもらったことがない。
段ボールに入っていた返信用封筒は、A4用紙を三つ折りにしないと入らないサイズだった。あの蝶たちがこの封筒に入ると思うなんて、世間知らずも甚だしい。
私は鱗粉が付着した封筒を蝶の形に折って、返信用封筒に入れてやった。逃したことはバレないだろう。返信先の住所を確認すると、「階段管理局」宛だった。最近アパートの階段の一部が崩れている理由に納得しつつ、「行」の文字に定規で線を引き、「御中」に書き換える。
近所のポストに返信用封筒を入れ空を見上げると、まだ月がこの世界を支配している時間だと気がついた。ふうっと白い息を吐き、自分の罪を思い出す。
遭遇した野良猫を追いかけ回したこと
庭の蟻の巣にジョウロの水を流し入れたこと
アキちゃんの椅子を引いて尾骶骨を骨折させたこと
ザリガニを誤って踏み殺したこと
食べたくなかった母のお弁当をトイレに流したこと
頭の中で嫌いなやつをぶん殴りまくったこと
弟のぬいぐるみをこっそり捨てたこと
これよ、それよ、あれよ、どれよ。
にい、しい、ろう、やあ、とお、
小さい罪も大きい罪も
ひとつと数えていいのかな
にい、しい、ろう、やあ、とお。
私がやってきたことなんて数え切れないと気づいた頃、電話が掛かってきた。もう少し浸らせてくれよと思ったが、「はい、私です」と出てやった。
「あの、非常に申し上げにくいんですが、蝶は夜に活動しませんよ。夜、彼らは目が見えなくなりますから。本当にあなたって人は詰めが甘い。虫図鑑でも買ってください」
手紙通り失礼なやつだと思いながらも「今後の参考にします」と返し、いつか訴えてやろうと会話は録音した。発信元はやはり階段管理局だった。
連中の世話になりたくはないから、次の春には階段を使わない一階に引っ越そうかと思う。
違う。そんな簡単な話じゃない。
自分の悪事を数えるだなんて。箱の中身に私を判断されるなんて、ちゃんちゃらおかしな話だ。
私はあいつにとっては悪者でも、遠くのあの人にとっては良い人かもしれない。
目が覚めたら、世界中の壊れた部分を直してやろう。
生きる意味なんて、そこから探しても遅くない。
何の企画でもありません。
誰も悪くないです。