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薔薇色の日々 #シロクマ文芸部
私の日、と呼んでいいのだろうか。
私が私のために、やりたいことをできる日。
これから私の日々が始まる。あぁ、何年ぶりだろうか。
東北の田舎から上京し、友人の紹介で出会った旦那と結婚。
旦那は末っ子だし「同居はないよ」と言われ鵜呑みにしていたが、「末っ子長男だから同居だ」と義母に言われ同居を開始。
その後あれよあれよと4人の子どもを産み、義理両親、4人の子ども、旦那の世話に追われ、気づけば結婚から30年も経っていた。
義父は10年も前に病気で亡くなったが、義母は米寿になっても毎日畑を耕し、暇があれば近所の友人とお茶をし元気に過ごしていた。
その義母が、ある日ぽっくり心臓発作で逝ってしまった。
「孫たちのためにメロンの苗を買ったから、明日には植えるからね」とにこやかに話していた矢先だった。
呆気なかった。
子どもも末っ子が大学へ進学し手がかからなくなり、義母もいなくなった。急に解き放たれた気分だ。
この30年間が嘘のようだ。
義母が亡くなってすぐ家を整理し、
義母が嫁に来る前からあったこけしはメルカリで売り、
義母が親戚からもらったキジの置物はお寺で供養してもらった。
義母の使っていた部屋も整理しようとしたが、マザコンの夫がそのまま使うらしい。
そして私は明日、息子の同級生のお母さんと薔薇を見に行く。
「来週末、与野の薔薇園が見頃らしいのよ。どう、今年は行けそう?」
毎年「義母の畑を手伝わなきゃ」なんて断っていたけど、今年は行くと即答した。
ああ、なんて嬉しい。
素晴らしい日々がやってくるのだ。
子どもも手がかからない、義母の目もない。私がやりたいと思うことをできる、私の日々がやってくるのだ。
どれだけ待ち望んだことか。
そういえば子どもたちが小さい頃、
義母が学校へ行く畑の通り道に、黄色い薔薇のアーチを作ってくれたっけ。
娘が「ディズニープリンセスになったみたい」なんて、ランドセルを背負いながらくるりと小さい体を回して喜んでいた。
その姿を見ながら、義母は花より美しい顔で娘を慈しんでいた。
お義母さんは、薔薇色の日々を過ごしたのだろうか。
私の日々は、何色になるだろうか。
▼以下の企画に参加しました!
祖母と同居していた母をモチーフにしました👆
私は母も祖母も大好きです🌹