#89 熟成論理の向こう側
これは#88論理と直感のつづきです。
尖った論理
サッカー日本代表の世界16強を導いた一因のひとつに岡田監督のひらめき(直感)がありました。
その直感をご本人は明確に偶然ではないことを言っています。
「ただ、それが天から突然、降ってくるものではないことは確かです」と。
それはある日、道を歩いていると偶然に所有可能な大金が落ちていたという、極めて偶然に都合の良いことが起きるようなことではなく、ある目標(出口)に向かって、明確な意思を持ち行動を繰り返すうちに、気がついたらそこが出口(目標)だったというものです。
つまり、答えを模索しながら思考やイメージを繰り返し突き詰めていくうちに論理が絞り込まれ、論理が尖がっていく。
そして、突然目の前に天使の尻尾が見え、それを触ることができるということです。
よく天使の後ろ髪は短いであったり、伸ばした手の先の僅か数センチ先に成功があると成功が形容されますが、それに近い論理ですね。
将棋でも、先の読めないなか、自分の手をどうやって絞り込むかといえば、直感なのだといいます。
羽生棋士によれば、直感とはオートフォーカス機能に似ているそうです。平均80通りの手から2・3つの候補に自動で次の手が絞り込まれます。その手の中から具体的にどの手が最も有効なものなのかシュミレーションするようです。
なので、直感とはヤマカンとは異なり、もっと経験的なものなので、構築的なもののようです。数多くの選択肢の中から適当に選んでいるのではなく、いままでに経験したいろいろなことや積み上げてきたさまざまなものが選択するときのものさしになっている。
つまり、カンを研ぎ澄ませるのは経験や蓄積で、その層が厚く多層になればなるほど、生み出された直感の精度も質も高まる可能性が高いわけです。
想定外(偶然)
論理を尖らせた直感によって勝負は大きく自分の方にたぐり寄せられることがわかりました。
しかし、どんな勝負においても偶然によって勝敗を覆されることはしばしばあります。
サッカーでいえば、ヨーロッパチャンピオンを決める決勝戦で、イタリアのACミランとイングランドのリバプールが激突した試合で、当時戦力的にはACミランの方が上で、リバプールは劣勢でした。
案の定、試合は前半のうちに3得点をしたACミランが圧倒的に有利に進めました。一般的にサッカーにおいて3-0の得点差は試合終了を意味します。3-0になった瞬間、スタジアムの席を立ち家路をたどるファンも多くいるくらいです。
ましてや、タイトルのかかる決勝戦で3-0は絶望的です。
ここで当時の監督ベニテスは、前半戦に負傷していたサイドバックにかえ、中盤のMFの選手に交代させる。(普通であれば同じ守りのSBを入れ替える)
そして、リーグ戦で一度も採用していなかった3バックに変更します。リーグで採用していないということは、実践をしたことがないということです。
普通ならチームのバランスは崩れ点差はさらに酷くなります。しかし、情報になかったシステムにACミラン側も混乱したのでしょう。1点目を返すと、立て続けに3得点をし、試合を振り出しに戻しました。
満身創痍の両チームに延長戦で得点をするエネルギーはなくPK戦になりました。ACミランは最初の選手が外すと2番目の選手もGKに阻まれ失敗。対するリバプールは1人目と2人目が決め、0-2になる。ACミランは3人目の決め、リバプールは失敗し1-2となる。
そして、両チームの4人目の選手が決めスコアは2-3に。
ACミラン最後の5人目の選手がGKにゴールを阻まれリバプールが優勝をしました。
この試合は、サッカー界では『イスタンブールの奇跡』と呼ばれています。
もし、前半でサイドバックの選手が負傷せずにプレイができていれば、あそこまで大胆な作戦変更は打てなかった可能性が高い。
なぜなら、試合のプランは優勢、劣勢とチームはプランを抱えていて、それに沿ってシステマチックに選択をします。いくら劣勢だからといってリーグ戦で試したことのないシステムを使うことはまずないためです。
つまり想定外の出来事で他に打つ手がなく苦渋の決断だったのかもしれません。
偶然に備える
読みが外れたり、偶然や想定外な変化によりこれまであった優位性が一気に崩れ敗北となることがあるがわかりました。
そんな時、心理的に取り乱してしまい立て直すことができなくなることもしばしばです。では、このような時に最善の選択をするにはどうすればよいのでしょうか。
まず、想定外のことが起こるには二つの要因があります。
ある可能性を完全に見落としていた場合と、ある可能性を気がついてはいたが、それほど重要視していなかったということです。
前者は、事前対策においての知識不足と配慮不足によるものです。しかし、ことが起こっている最中、完全に見落としていたことに対して随時適切な対応をすることはまず不可能に近い。
ならば、それは次回の糧として捉え開き直ることも大事かもしれません。
ですが後者は事前に正確な情報があったにもかかわらず正確に物事を読み切れないことによる不備によるものなので、反省が必要になるでしょう。
また、開き直りによる効果はあなどれません。
勝負において重要なのは精神バランスが乱れず自身の能力を最大限に活用できるかにかかっています。そのため、勝負中に改善不可能な無駄なことに労力を割いていては良いパフォーマンスができません。
それを切り離し、今できることを最大限行うことが最適解になります。
開き直ることで戦況をフラットな目で再認識でき、想定よりも良い結果が生まれることもあります。
つづく
参考文献:「勝負哲学 岡田武史 羽生善治」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
板谷隼さん画像を使用させていただきました。
毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますのでよろしくお願いします。
no.89 2021.10.22
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