#77 イノベーションは偶然に
これは#76 仕事は楽しい('_')?のつづきです。
「今度はイノベーションの話を通して偶然について学んでもらうと思う」
そういってジャックは語り出した。
「多くの僕らが目にしている企業や定番商品の多くは革新的なアイデアによって生まれた。革新的なアイデアといってきみはどのようにしてそれらが生み出されると思うかい?」
「詳しくはわかりませんが、会社で何時間も会議をしたり、試行錯誤の果てにより良いものに絞られそれらが結果的に定番商品のようになっていると思います」
「きみの言う通りなら企業努力の賜物だね。確かにそういうこともあるだろう、でもね僕が今話すことは偶然の産物だ。
代表的なものでいえばコカ・コーラだね。
アトランタにジョン・ペンバートンという薬屋がいて、何十種類のもの治療薬を考え出していた。インディアンの白髪染め剤とか、金梅草の咳止めシロップとか、フランスワイン色のコカの木とか、人生を三倍楽しむための丸薬といった名前の薬をね。
ある日、ペンバートンが店の奥にある部屋に入ると、従業員の二人が彼の新しく作ったシロップ状の頭痛薬を水で割って飲んでいたんだ。
彼らは別に頭が痛かったわけじゃない。そこでペンバートンは興味を持った。試しにシロップ状の頭痛薬を水で割って飲んでみたんだ。
確かに美味しかった。でもどこか物足りなく感じた。すると彼は、このシロップをソーダ水で割って飲んでみた。そうしたら、これはたまらなく美味しくなったんだ。
そして彼は、コカ・コーラという名前をつけて店で売ることにした。
ちなみに独特な書体のコカ・コーラのロゴだけど、あれは広告代理店やデザイナーに発注して考え出されたものじゃない。ペンバートンの仕事上のパートナーが売り上げの記録をつけていたノートに書いていたものなんだ」
彼はビジネスマンに何かを尋ねようとしたが途中でやめた。
「次はある青年の話だ。青年は10代でアメリカに渡った。そして、行商人として働いた。
ある日、カルフォルニアの<金>の話を耳にすると、サンフランシスコ行の快速帆船に是が非でも乗りたくなった。きっと、彼はこれは大儲けできると思ったんだろうね。(当時のアメリカはゴールドラッシュだった)
そこで彼は大量の商品を船に持ち込み一緒に旅している人たちに売ってまわった。計画は大成功でほとんどのものは売ることができた。
だが、テント用の汚い帆布はどうしても売れなかった。
そこで、サンフランシスコに着いてからもう一度、汚い帆布を売ろうと努力したけど、からっきしだった。でも市場に出かけた彼は、金の採掘に向かう鉱夫から、すぐに破けてしまう作業ズボンをなんとかできないかと相談を受けた。
そんな話は行商人の彼からすれば断っても良かったんだけど、売れ残りの帆布を使ってズボンを作れば一石二鳥だと思った。すぐさま、サンフランシスコの仕立て屋を雇って、帆布を使った作業ズボンをつくらせた。
するとこれがたちまち人気となって彼は行商人からズボンを売る会社へと変貌した。
彼の名は、リーバイ・ストラウスといって、リーバイスの創業者だ」
写真:リーバイス(R)ストア
彼は、先ほど喉元まで出て呑み込んていた言葉を吐き出した。
「僕はなぜ、こういう話をきみにしているんだと思う?」
ビジネスマンは彼の意図を読み取り答えた。
「イノベーションは、秩序があるのではなく偶然の産物であり、それを生み出すためには遊び感覚でいろいろやって、試行錯誤を繰り返さなくてはならないといことですか」
「ご名答、まさにその通り。思いつきと偶然の出来事は異母兄弟なんだ。注意さえ払えば、ありとあらゆるところに偶然が転がっているのさ」
「ああちょっと話はズレるけど偶然のイノベーションとそれを気合で昇華させた矢野商店の話も面白いよ。
昔、矢野博丈という移動販売をしている人がいてね。彼は雑貨や鍋などを仕入れて売っていたんだ。多くの場合、仕入れ値に利益をのせて価格が決定されるのだけど、彼には妻子がいてね、いろいろなものをいろいろな価格で売ることがあるとき、面倒になってね、すべての商品を100円均一にしたんだ。
この方が値札をつけるのも楽だし、当時は消費税もないから会計も楽だしね。お客さんもその方が喜ぶと思ったんだろうね。でもね、最初は上手くいかず数人で来店されたお客様からは
「ここでこんな物買っても“安物買いの銭失い”や。帰ろう」
といって帰ってしまった。
それをみた矢野さんは
「ちくしょう!ならワシは利益を度外視していい物を売ってやる!」
と原価の高い物も仕入れてすべて100円で販売したんだよ。
当然仕入れ値が99円なら利益は1円しかないから会社としては大変だよね。でも、利益が1円しかないようなものは客からしてみればすごく安く見えるわけだ。するとお客様が「これも100円?」「本当に100円なの?」という声が
おこり始め矢野商店は軌道に乗った。
のちにダイソー(大創)と名前を変え、現在は海外にも進出している」
ね、すごいだろ」
「とても良い話でした。ですが、わたしは偶然という理にかなっていないものに頼ることは不安でしかありません。何か論理的な仕組みでわかる方法はないんですか」
ビジネスマンはそう答えた。昨日までの自分を否定され今日からの指針が偶然という漠然とした最適解では仕方がないように思える。
すると彼はポケットからミントのタブレットを取り出した。
「これはさっき売店で買ったんだ。きみも食べるかい」
そう言ってタブレットをビジネスマンに渡した。
「さて、このミントをなぜ僕は買ったんだと思う?」
「食べたかったんじゃないんですか」
「いいや、そんな気は全くなかった。売店でガムを買おうと思っていたんだ。でもね、隣の壁にこのミントのポスターが貼ってあって気がついていたらこれを買っていた」
「そうですか」
「何が言いたいと思う?」
「衝動買いをしたってことですか」
「違うよ、僕はガムを買おうとしてミントタブレットを買った。つまり、計画と結果は異なった。人生にはこんなことがいくらでもある」
「ですがガムを買うのと仕事を選ぶのは規模が違いすぎます」
「そうか。では、よりよく吟味し知識を集めて選び購入したものはあるかい?」
「そういう意味では車ですかね」
ビジネスマンは答えた。
「じゃあ、今度買い替えるときがきても、それをまた買うのかい?」
何となく彼の言いたいことがわかった気がした。
「いいえ、心から欲しい車をかいます」
「そうだろ」
そう言って、ジャックは満点の笑みでビジネスマンをみた。
「きみには、これでいいやって気持ちをもっと持つことが必用なんだ。統計データはもっと少なくていい。事実というのは弱い者につけ込む。現実的な情報をこれでもかって、これでもかと出してくる。
まるで詐欺師の常套句のようにね。
だから、惚れこむような車が欲しいのなら、まずこの車だと決めて、それからその車の情報を集めるんだ」
ビジネスマンは上手く説明できるほど理解できてはいないが、論理的思考の見落としているところなのかもしれないと思った。
「この考えは、失ったものを数えるより今あるものを数える方が人は幸せになれることに似ていますね」
「よい考えだ。そう、望みうる最良のものは、手に入れたものを好きになることなんだよ」
ふと脳裏に過去の記憶がよみがえった。
ビジネスマンは今の会社に就職する前、友人たちと共同出資し小さな会社を起こし失敗していた。
会社を起こした年は事業は上手くいったが翌年、そのまた翌年と業績は悪化していった。理由は簡単で同業他社が多くなり価格戦争に敗れたのだ。
共に起業した仲間とは経営悪化とともに仲たがいをし音信不通になった。
今思えば当時の自分たちは完璧な仕事をしていると思い込み、それ以上向上するための努力もアイデアも出してはいなかった。一つのシステムが未来永劫続くものだと思い、ジャックのいうより良くなるためのチャレンジをしていなかったのだ。
「成功した多くの起業家は、みな独自の道を歩いて成功している。それでも成功した起業家は自分の辿った道が正しいと思い込んでいて僕のようにすれば成功できると本気で思っている。
でも、いざ彼らのように行動してみると、そこには自分に似た人たちがひしめき合っていて、小競り合いが絶えず、成功は至難の業だ。
そして先導者はさらに遠くに行ってしまい、追い抜くどころか追いつくことすらままならないのさ」
「ビジネス用語でレッド・オーシャンというだろ。ビジネスにおいて流行っているものはすでにレッド・オーシャンなんだよ。
先導者や先駆者はつねにブルー・オーシャンを航海し、成功の島を発見する。だから、成功の島にあとからついても、そこには多くの人が上陸していて大変なのさ」
「つまり僕が言いたいのは、
成功するというのはね、右に倣えしないっていうことなんだ」
おわり
参考文献「仕事は楽しいかね? ディル・ドーテン著」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
himeさん画像を使用させていただきました。
毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますのでよろしくお願いします。
no.77 2021.7.30