
これは、涙で始まり、涙で終わる物語。「わたしはあなたの涙になりたい」
「塩化病」という病(架空の病)によって母を亡くした主人公の三枝八雲が、ヒロインの天才ピアニスト五十嵐揺月と出会うところから物語は始まります。
物語の序盤は主人公を中心にキャラクターと世界観の説明です。
八雲と揺月はそれぞれ色々な理由で家族との関係がうまくいっていない中で出会い、距離を近づけていきます。
お互いを補完し合う…という表現が合っているか分かりませんが、僕は二人を見ていてそう感じました。
これまで置かれてきた環境というか、境遇が似てるんですよね。
それゆえお互いに惹かれ合ったのではないかなと
それぞれ成長していくわけですが、揺月が海外でピアニストとして活躍を始めると二人の距離が離れ、八雲は揺月が手の届かない存在になってしまったかのように感じ無気力に。
そんな時、八雲の友人の清水がとあるアクシデントで大きなハンデを背負うことになります。
しかしそのハンデを乗り越え、誰もが難しいと感じる目標を乗り越える姿を八雲は目の当たりにします。
このシーンは本当によかった。涙しながら読みました。
そんな清水の後押しもあり、八雲も無気力状態から復活します。
そしてこれまで長い間連絡が途絶えていた揺月からコンクールに出るとの連絡が。そのコンクールが開催されるワルシャワに来て欲しいと言われます。
迷わず八雲はワルシャワに向かい、久しぶりの再会。
成長して美しくなった揺月と二人で過ごす時間。
この章の展開はとても前向きで明るく楽しく、ページをめくる手が止まりませんでした。
会えなかった期間が長かったにも関わらず、八雲も揺月もお互い思い合う気持ちがとても伝わってきて素敵な時間でした。
しかし、ここから物語は急速に進み始めます。
これまでの幸せな展開が嘘のように非情に、そして残酷に。
クライマックスからエピローグまでの展開は、涙なしには読めないものでした。エピローグは本当に良かった。
本作は決して読みやすい文章ではないと思います。
しかしどの表現もとても丁寧に描かれていると思いますし、用いられている比喩表現もすごく良いと感じました。
ラストは悲しいです。
だけど暖かく、八雲と揺月の二人の物語ではありますが、決して二人だけではなかったんだと気づきます。
そしてタイトル回収…とにかく泣けます。
レーベル的にはガガガ文庫なのでライトノベルに分類されるんだと思いますが、正直内容はライト文芸ではないかと、個人的には思いました。
もしかしたら読む人を選ぶかもしれませんが、個人的には傑作だと思っています。是非多くの方に読んでいただけたらと思います。