高橋健太郎写真展 赤い帽子/受け身の歴史の記憶を保ち闘いを背負う
高橋健太郎写真展「赤い帽子」。戦前に治安維持法違反容疑で教師や教え子が逮捕された「生活図画事件」。存命の97歳と98歳の日常を撮ったドキュメンタリー。今でも毎年、治安維持法国家賠償要求同盟の院内集会や請願に、生活図画事件の弾圧被害者である菱谷さんや松本さんは今も参加している。
生活図画事件は終わっていない。国家による弾圧への謝罪や賠償、償いな法整備は未だ為されていない。このドキュメントはレンズを向ける高橋健太郎の問題であり、私たちの問題でもある。共謀罪、秘密保護法、徴用工訴訟、従軍慰安婦、あいちトリエンナーレの助成金不交付は、表現者を殺す。だから抗う。
外国の弾圧や過酷な中、日常で笑う生活をモチーフにする日本人作家をよく目にするがどこか物足りなかった。隣国や地球の反対側のドキュメントの前に自国の歴史と向き合い現代に照射する表現が欲しかった。高橋健太郎の写真は生きていた。老人の日常は弾圧の記憶と終われない闘いを背負っている。
日本の表現者は弾圧、差別、加害の歴史と向き合うことを極端に恐れている。私たちは自身たちが参画している運動の「現場」から何人かのアーティストを目撃してきた。高橋さんの現場は歴史だった。だから自分は彼を存じ上げなかったことが嬉しかった。多層で時間軸の異なる現場が生んだ表現に痺れた。