【期間限定公開03】CHAPTER1 あらためて自己肯定感について正しく理解しよう


「好き」や「こだわり」を言葉にできますか?

 ここ数年で、「自己肯定感」という言葉を聞く機会は飛躍的に増えました。
 様々なメディアが、自己肯定感の大切さを取り上げていますが、改めて、この「自己肯定感」とは一体どのようなものなのかを見ていきましょう。
 それは、自己肯定感を上げるために、その”正体”をしっかりと把握しておく必要があるからです。

 職場に、仕事の成績がよくて、社内での評価も高く、いつも明るくニコニコしている人がいると想像してください。あなたは、「きっと自己肯定感が高い人なんだろうなあ」と思うのではないでしょうか。
 しかし、そうした自信満々な姿と自己肯定感の高さはイコールではありません。

 自己肯定感とは、どんな自分であっても「それでいいんだ」「これでこそ自分なんだ」というように、ありのままをポジティブに受け入れる感情のことです。
 この感情が生まれやすい人のことを、「自己肯定感が高い人」と表現します。

◆人の空気を読むのではなく
 では、なぜ私たちはありのままの自分をなかなか受け入れられないのでしょうか。
 それには、多くの人が「他人の目を気にしてしまう」ことが大きく影響しています。
 みなさんにも経験があると思いますが、他人からの評価を気にする傾向が強いと、生きることに窮屈さを感じてしまいます。
 例えば、「あなたはどう思う? どうしたい?」と質問をされた時に、あなたはしっかり自分の意見を言えますか?
「否定されるのではないか」「笑われるのではないか」などと考えてしまい、自分の意見が主張できないのではないでしょうか。
 また、周囲の人たちが期待している答えを敏感に察知し、自分の意見ではなく、誰も傷つけない無難な答えばかりを選んでいませんか。

 働く以上は、常に自分のペースで傍若無人に振る舞うというわけにいきませんから、時には、他人の目を気にすることも必要になります。
 つまり、社会という共同生活の一員ならば、バランスを保ちながら生きていく必要があります。
 そのバランスを保つためには、 「自分が何を大切にしているか」「自分が譲れないものは何か」、好き・嫌いなどの「こだわり」を、自分で言語化できるくらいに把握することが大切なのです。

 そのうえで、自己肯定感をひも解く3つのポイントをお話ししたいと思います。


自己肯定感の基本ポイント① 今までの人生を振り返る

 今の自分を「そのままでいい」と受け入れるためにはまず、自分自身について知る必要があります。
 それを可能にする方法として 「ナラティブアプローチ」 というものがあります。
 これは、今までの人生を、自分の口調で語ってもらうという手法。

 例えば、
「小学生の時、私は友達と休み時間に鬼ごっこをするのが好きで……。このようなことがあって……。中学生の時は……。高校生の時は……」
 といったように、場面を区切りながら、自分を主語にして、どのようなことを考え、どのようなことを感じたかを、自由に自ら語ってみてください。

◆誰かとやると効果的
 実は、ここで出てくるものには、本人が今もこだわりに囚われているストーリーが多いのです。これを 「ドミナント・ストーリー」 といいます。
 ドミナント・ストーリーには自分の本質が入っていることが多く、今の自分自身を知るには、とても有効な方法です。

 ただし、これは1人で行うのではなく、誰かに聞いてもらいながら、
「話題がちょっとずれちゃっているかも」
「それは誰かに言われたわけじゃないから、絶対にあなたが悪いと決まってないんじゃないかな?」
 など、時に話の軌道修正をしてもらいながら行うと、より精度が高まります。
 もし1人で行う時は、ノートに書き出したり、録音して後で振り返れるようにしておきましょう。


自己肯定感の基本ポイント② 誰よりも自分の価値を認める

 自己肯定感が低いと、どうしても自分には価値がないと思い込んでしまいます。
 言うまでもなく、価値のない人なんてこの世の中にいませんから、悩む必要はありません。

 しかし、たとえ優れた技術や資格を持っていても、「自分には価値がなくて」といった不安や心配にさいなまれている人は本当にたくさんいます。
 そのような人たちに共通しているのが、 「周囲から認められた」という感覚が少ないことです。実際には感謝や評価をされたことがあるのに、自分だけがそれを実感できずにいるのです。

 これを少し専門的に表現すると、 「認知のゆがみ」が存在していると言えます。
「あなたのおかげでうまくいったよ!」と感謝されても、「いえいえ、これは部下のサポートと、上司のアイデアのおかげです。私はもっと早くクライアントにアポを取るべきでした」というように、自分への正しい評価を受け入れられず、自分として納得できなかったところに目が行ってしまうのです。
 私はこんな時、次のような行動や考え方を駆使して、ゆがみを少しずつ矯正できるように説明しています。

◆あなたのコツコツが、あなたを変える
 それが「誰もが面倒くさがることを、誰よりも積極的にやっていく」というもの。
 誰もが面倒くさがることは、ある意味、誰でもできることかもしれません。

 仕事の評価につながるわけでもないため、ほとんどが敬遠されがちですが、
●廊下のゴミを拾う
●みんなが使っている電話をきれいにする
●パンパンになったゴミ袋を取り替える
●コピー機の紙を補充する
●トイレの手洗い場に飛び散った水を拭いておく
●届いた郵便物を仕分ける
 など、会社の中には 「誰かがやってくれたら助かる」 ことが、たくさんあります。
 こうしたことに、コツコツと積極的に取り組んでみましょう。

 この方法には、2つのメリットがあります。
 1つ目は、すぐに結果が出る点です。あなたは今まで、仕事で認めてもらっても、「○○さんのおかげです」などと言わずにはいられなかったかもしれません。
 しかし、これについてはすぐに結果が出て、あなたの頑張り以外の何物でもないですから、自分で自分の頑張りを認めやすく、自分の価値をダイレクトに受け止めることができるでしょう。

 2つ目は、今まで以上に自分を丁寧に扱ってくれる人が増える点です。
 面倒なことを積極的に引き受けるあなたの姿を、必ず誰かが見ています。
 その結果、あなたへの周囲の態度が変わってくることを、あなた自身が感じ取ることができ、自分の価値に気づけるようになっていくのです。

◆「自分褒め」をやってみよう
 さらに、自分で自分を褒めることで、より「私には価値があるんだ」と自己肯定感を高めることにつながります。
 ただ、大半の人は、いきなり自分を褒めましょうと言われても、どうすればよいかわからず、戸惑われることと思います。

 そこで、次の3つのポイントを意識してみてください。
 1つ目が、「周りから『いいね』と言われたところ」 です。
 自分のいいところは、意外と自分では言語化できないもの。だからこそ、誰かに褒められた時は、それが自分ではしっくりこなくても、忘れないようにメモに残しておきましょう。褒められた内容は、決して特殊なものでなくて大丈夫です。

●挨拶の声が大きくて気持ちがいいね
●物の扱いが丁寧だね
●段取りのタイミングがいいね
●いつも笑顔で接客しているよね
 などなど、何でも構いません。

 2つ目は、「しんどいけれどこなしていること」 です。
 何をしんどいと感じるかは個人差があるため、誰かと比べる必要は全くありません。
 毎朝決まった時間に起きて、会社に向かうことが「しんどい」人もいます。
 仕事が終わってヘトヘトなのに、夫が家事を手伝ってくれず1人でこなすのが「しんどい」人もいるでしょう。
 このように、「しんどい。でもこなしている」ことについても、大いに自分を褒めてあげてください。

 3つ目は、「心が苦しくなった時」 です。
「苦しい時に褒める? なぜ?」と思われたかもしれませんね。
 心が苦しくなるようなことを体験している時は、間違いなく、あなた自身がとても頑張っている時。
 心を削りながらも、痛みに耐えて努力しているわけですから、そのような時こそ、自分の頑張りをたくさん褒めて、心のケアをしてあげましょう。

 すぐに変わることは難しく、最初はうまくいかないかもしれません。
 それでもまずはできる範囲で、誰もが面倒くさがることを、誰よりも積極的にやってみたり、自分を褒めることを続けてみてほしいと思います。
 そうすることで、自然と「私には価値があるんだ」という感覚が生まれてくるはずです。
 焦りは禁物です。あなたのペースでコツコツと進んでいきましょう。


自己肯定感の基本ポイント③ 「自分はきっと大丈夫!」と信じる

 人は誰しも失敗したり、間違ったりします。
 自己肯定感が低い人は、そういった時に「自分はやっぱりダメなんだ」と思ってしまいがちです。言い換えると、心のどこかで「失敗しないだろう」と思っている証でもあります。
 一方、自己肯定感の高い人は、「自分は失敗もする人間だ」と考えているため、失敗や間違いを受け入れる心の準備ができており、自分の能力や存在を否定しません。

 誰だって失敗はするものですから、そこから何を学ぶかのほうが大切なのです。
 また、その失敗を通して戦略や手順を見直し、新しい気づきや学びを取り入れて次の成功につなげるのも大事なことです。

◆失敗は成長のもと
 そしてもう1つ、 「今の自分の能力はこのあたりなんだ」と気づくことも、新しい学びです。
 社会に出ると、学生の時とは違い、テストで順位を決めるわけではないため、自分の立ち位置やでき具合を誰も教えてはくれません。
 ですが、失敗すれば、今の自分の限界や立ち位置を知ることができます。
 
 結果は失敗だったかもしれません。
 しかし、その過程において、多くのことを学び、手に入れているはずですから、何も心配せずに自分の成長を信じてください。
 
 また、失敗によって、得意・不得意の領域に気づくこともあります。
 大人になってから自分自身のことをよく知る機会なんてそうありませんから、大きなチャンスだと考えてくださいね。

 物事や仕事がうまくいかなかった時、「自分という人間の価値が下がった」とまで思い込んでいる人がいます。
 もちろん、これは完全に勘違いで、そんな事実は一切ありません。
 繰り返しますが、誰だって失敗し、うまくいかない経験もしますから大丈夫です。
 人間として当然の姿であるあなた自身を、素直に受け入れてあげて、思い通りにいかなかった自分をたくさん許してあげてください。

 そうは言うものの、「私は大丈夫」と信じるための根拠が、自分の中に全く見つからないという人もいることでしょう。
 そんな人には、「カラーバス効果」 について知ってほしいと思います。
 突然ですが、今朝起きてから、目にしたものの中で「赤いもの」を思い出してください。

 ……いくつ出てきましたか?
 恐らく多くても10個ほどではないでしょうか。
 
◆色も自分の頑張りも見つかる
 では、明日、朝起きた時から「よし! 今日は赤いものを意識して探してみよう!」と思って1日を過ごすと、どうなるか――。
 前日には意識しなかった、次のようなものがきっと見つかるでしょう。

●自分の胸ポケットにあるボールペンの赤色
●電車に立っている、知らない人の赤い口紅
●電車内の広告にデカデカと載っている赤文字
●店の看板に使われている赤い装飾
●会議室にあるイスの背もたれ部分の薄い赤色
●隣席の女子社員の赤いカバン

 カラーバス効果とは、ある1つのことを強く意識すると、それに関する情報が、バーッと自分に集まってくる現象を指します。
 そして、これを応用して、 「今日は自分の頑張っているところを探してみよう」と、意識して過ごしてみてほしいのです。
 今まで気づかなかったようなことが、どんどん見つかりますよ。

 これを1日で終わらせるのではなく、まずは1週間と区切りをつけたうえで、毎日継続してみてください。
 あなたがいかに毎日頑張って努力しているか、思い知ることになるでしょう。
「これだけ頑張っているのだから」と、自分をもっと大切にする気持ちが生まれてきますし、自信を持つことにもつながっていきますよ。


日本人の美徳も度を超すと……

 日本人特有の美徳だと言われる、謙虚さや礼儀正しさ。
 たしかに、相手を気遣うことで人間関係がスムーズになる面もあり、素晴らしいことではあります。しかし、それがあまりに過剰になっている人も……。
 しかも、一時的ではなく、どんな場面においても、誰かから褒められると、必要以上にへりくだっていることが多いのです。
 必要以上の謙遜は、自己肯定感を下げてしまう行為になるため、思い当たる節がある人は十分に注意しましょう。

◆褒めてくれた相手までも貶めて
 例えば、誰に頼まれるわけでもなく、会議の後に進んでイスや机の位置を直したり、ホワイトボードをきれいにしたり、最後に消灯して出ていく人がいます。

 上司も「いつも最後に片づけてくれて助かるよ。あなたは、次に使う人のことまでちゃんと考えてくれる人なんだね」と感謝を伝えて褒めるのですが、本人は、
「いやいや、そんな人間じゃないですから」
「それくらいしかできませんから」
などのように答えてしまう――。

 こうなってはもはや、謙遜ではなく、自分自身を卑下してしまう行為です。
 さらに、毎回否定的なことを言っていると、褒めた側も自分が否定されたような、いたたまれない心地になって、次から褒め言葉をかけにくくなってしまいます。
 こんな状況を自分で何度も作り出していると、認められていると感じることも少なくなり、結果として「やっぱり私は必要のない人間だ」とネガティブに考えてしまうわけです。

 これでは、自己肯定感は下がる一方ですよね。

◆謙遜の正しい意味を知る
 では、他人から褒められた時は、どのように対応すればいいのでしょうか。
 
 大なり小なり褒められた時は、まず何よりも、感謝の気持ちを伝えましょう。
「ありがとうございます」から入り、褒められた評価を丸ごと受け取ってください。
 謙遜ばかりしてきた人は、最初はぎこちなさを感じるかもしれません。
 そのような時は、 「感謝+自分のポジティブな気持ち」 をそのまま伝えてみるといいでしょう。

「ありがとうございます。そのように言ってもらえて嬉しいです」

 これで十分です。
 相手もあなたに喜んでもらえて、心地よくいられます。

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 謙遜は、決して褒めてくれた言葉を否定する行為ではありません。
 自分で自分を正しく評価して、自分の実力以上には驕りたかぶらず、また、自分の実力以下にはへりくだらない態度こそが本当の「謙遜」 なのです。

 知らぬ間に自己肯定感を下げてしまわないためにも、相手がポジティブに評価してくれたことを素直に受け取り、自分を卑下しないように変わっていきましょう。

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