【期間限定公開02】PROLOGUE なぜ、働くうえで 自己肯定感が 大切なの?

変えるべきは自分? それとも周り?

 まずお聞きしますが、あなたは、この1週間で「仕事、楽しいな」と思う瞬間がありましたか? あるいは、こんなことはなかったですか?

●朝起きて、その瞬間から「会社に行きたくない……」と考えて起き上がれない
●人付き合いがしんどい。あの人の顔を思い出すだけで気が重くなる
●何がというわけじゃないけど、毎日楽しいことがなくて自分でも暗いと思う


 もしかしたら、その原因は 「自己肯定感」の低さにあるのかもしれません。
 自己肯定感が低いと、自分自身についてはもちろん、自分の考えや行動にも自信が持てず、「本当にこれでいいのだろうか」と常に不安に思ってしまいます。
 当然、その不安を抱えたままでは仕事へのモチベーションは上がりませんから、結果としてパフォーマンスも悪くなる、という負の連鎖が起こり始めるのです。

◆必要なのはスイッチの切り替え
 そして、あなたはこうした状態が自分の問題ではなく、周りの環境のせいだと考えているかもしれません。例えば、「上司が私を認めてくれないから」「会社が残業を黙認しているから」という具合です。

 だからと言って、上司や会社を変えるのは非常にハードルが高く、かなりの時間やエネルギーが必要です。あなた自身もそのことに気づいているからこそ、「どうしようもない」と途方に暮れているのでしょう。 そうして、失敗やミス、できないことにばかり目が行って、「この会社に私がいる意味はあるんだろうか」と、自分の存在さえも否定し始めてしまうのです。 周りを変えるのは、いつの時代も大変なことです。

 なかには、エネルギッシュに自ら変化を起こそうとする人もいますが、多くは、途中でエネルギーが枯渇してしまい、うまくいかないものです。
 そうして、失敗やミス、できないことにばかり目が行って、「この会社に私がいるまた、治療を受け回復しても、その方法を知らないままストレスフルな職場に戻れば、同じようにつらい結果が訪れることも十分に予想できます。

◆何よりあなたの幸せのために
 たとえ周りや過去は変えられなくても、あなた自身が変わることで生きやすさは手に入りますし、その結果、あなたの未来も変えることができます。
 
今まで、仕事へのやる気・やりがいを感じられない原因は自分の外側にあると考えていたなら、一度、「内側にある自己肯定感の低さが根本の原因かもしれない」と、視点を変えてみましょう。

 「上司が認めてくれない」のも、些細なやりとりをネガティブにとらえすぎ、それを拡大解釈して「認めてくれない」と思い込んでいたのかもしれません。
 さらには、それを一般化しすぎて「誰も私を認めてくれない」とまで考えてしまい、自分で自分を責めて苦しんでいた可能性もあります。

 ここで心に留めていただきたいのですが、「やっぱり私に原因があるってことなんだ」と、また自分を責めることだけはしないでください。
 大切なのは、原因に気づいたうえで、ほんの少し考え方や見方を変えること。
 そして、それによってあなた自身の働きやすさや幸せ、職場での居心地のよさを取り戻すことなのです。


「理想の自分」とは今日でサヨナラ

 これまで私は、産業医や精神科医の立場から、働く人たちの悩み相談をたくさん受けてきました。
 そのなかで特にここ最近増えてきたと感じるのが、自己肯定感が低くて苦しんでいる人たちです。

 特徴として、次のような「口癖」が挙げられます。

●「私ができないから悪いんです」
●「嫌われたくないから、そんなこと言えません」
●「私はダメな人間だから、いつも人の意見に従っています」
 
 自分に全く自信が持てないため、他人に依存してしまう。嫌われないように、自分より相手の居心地が最優先……そんなふうに生きていかざるを得なくなっているのです。
 自己肯定感が低いというのは、周りを気にして常に緊張で張り詰めている状態とも言えますので、毎日の往復の通勤だけでもクタクタに疲れてしまいます。

◆60点こそ「私らしい」
 あなたも、自分を「変えなければ」と様々な努力をしてきたのではないでしょうか。
 セミナーに参加してみたり、自己啓発を促す本をたくさん読んだり……。
 しかし、頭では理解できても、心にはなんだかしっくりこなくて、いつまでたっても変わらない自分にガッカリしてしまう。そんな経験をしているかもしれません。

 こういう場合、大半の人は頭の中に「理想像」を持ってしまっています。
「30代の営業職なら、これくらいはできるようにならないとダメだ!」「子育てと仕事をうまく両立しなければいけない!」といった考えのことです。

 人間は、理想と現実のギャップに大きなストレスを感じます。
 ですから、理想の姿に近づけないと、イライラするし、ストレスもたまります。
 しかし、理想ばかり追い求めるのではなく、 「うまくできないところもあるけれど、今の自分でも大丈夫だ」と心から思うことができたら、どうでしょうか。
 きっと、自分らしく生きていけると思いませんか。

 職場では、あなた以外にも色々な人が働いています。
 そのため、周りとコミュニケーションを取ったり、力を合わせたりする必要があります。時には、同僚とライバル関係になって切磋琢磨することもあるでしょう。
 それだけ他者との関わりが大きく、周りと足並みを揃えることも必要な環境では、つい他人のペースに巻き込まれてしまいがちです。
 
 そんな中でも、自己肯定感をきちんと持てていると、どんな時でも自分の軸を中心にした考え方でいられるため、巻き込まれることがなくなります。
 自分が理想とする100点満点の姿を目指すのではなく、60点くらいの自分であっても、「それが私だよね」と心から思える状態こそが、「自己肯定感の高い人」 と言えるでしょう。

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 自己肯定感が高ければ、つい他人と比較してしまった時も「でも自分は自分、他人は他人だ」と自然に思えます。今までのように、誰かと比べて自分を責めてばかりいた苦しい時間から解放されるのです。

◆コツを知ればもう大丈夫
 とは言え、相談者にこうして説明すると、実際は次のような答えが返ってくることが圧倒的に多いのが現状です。

「今まで色々とやってきたのに、無理ですよ……。もう限界です……」

 同じ気持ちになった方も多いかもしれません。
 今まで理想の自分を追い求めて努力してきたのだから、いきなり「60点でいいと考えよう」と言われても、しっくりこないのは自然なことです。
 
 しかし、あなたが今も一生懸命、現状を打破しようと努力しているのは間違いありません。
 限界を感じるということはつまり、最大限に努力している証なのです。
 それだけ努力家のあなたなら、考え方を変えるちょっとしたコツを知るだけで、きっと自己肯定感は自然に上がっていきますから、どうか安心してくださいね。


職場の3大ストレスの本質とは?

 厚生労働省発表の平成30年度 労働安全衛生調査(実態調査)によると、職場のストレスの大部分が、仕事の質・量や職場の人間関係であることがわかります。
 具体的な内容は人によって様々ですが、その根っこの部分は同じです。
 そこで、ここではそれらを分解して考えてみましょう。
 
 まずは、仕事の質。
 ここにストレスを感じるのは、興味深いと言えます。というのも、人は仕事を選ぶ際、程度の差はあれど「興味を持てる仕事」を選ぶものです。
 しかし実際には、多くの人が、仕事の「質」にストレスを感じている。つまり、それだけ 「思ったような仕事に従事できていない人が多い」 ということです。実際に働いてみて、「自分に合った仕事じゃないのかな」と考える人や場面は少なくありません。

 そこから取り得る行動には、色々なものがあります。
 もちろん、自分の希望に近づくために転職するのも1つの方法ですよね。
 しかし、誰もがすぐに転職できるわけではありません。
 
 その足かせになるのが、心中にある次のような考えだったりします。

●辞めるなんて言うと、周りの人が好きな仕事を否定することになる
●みんなは頑張っているのに、そんなこと言い出せない
●逃げちゃダメだ。逃げたら、自分が弱いということになる

◆”みんなは頑張っているのに”の罠
 また、働き方改革や在宅勤務・リモートワークの拡大などにより、働くスタイルもこれまでと比べてずいぶん変化してきました。
 それでも、仕事の量が減ったわけではありません。
 また、いつでもどこでも会議や仕事ができるようになったことで、 「24時間仕事から離れられない」状況になったと言っても過言ではないでしょう。
 相手の都合を優先して深夜の打ち合わせに参加しなければならない人や、仕事と休みのメリハリをつけづらく、ダラダラと残業が増えている人もいると思います。

 いつまでも仕事が終わらない現状に、本当は弱音を吐きたい。でも、こんな考えが頭をよぎり、重圧を感じて行動できない……ということはありませんか。

●周りも頑張っているのに、自分だけしんどいなんて言えない
●みんな忙しいのに、誰かにSOSを出すなんてできない
●弱音を吐いたら周りから「能力がない」と思われてしまう

 仕事の質と量のいずれも、「周りの目」を気にしてストレスになっていることがわかりますね。

◆上司にのみ込まれるカラクリ
 続いて人間関係について見ていきましょう。
 私はこれまでの経験から、ストレスになる人間関係は、ある程度パターン化できることに気づきました。
 まず、職場であなたや多くの人を苦しめ、居心地を悪くしているのは圧倒的に「上司」との関係が多いと言えます。
 そして、ストレスを生む上司のタイプは、次のような人たちです。

●責任を取ろうとしない上司
●些細な間違いや失敗に対して罵倒してくる上司
●噂好きの上司
●空気の読めない上司

 こうしたタイプの上司と一緒に働いていると、あなたは悪くないにもかかわらず、立場の差を利用し、まるで悪者かのように扱われることがあります。

 そうして、空気にのまれてしまい、本当に自分が悪いのだと思い悩み、
「やっぱり、私はダメな人間なんだ」
「私は仕事ができない人間なんだろう」
「結局、私が社会不適合者というだけなんだ」
 などと自分の存在を責めてしまうのです。

 職場の代表的なストレス3つを分解してみました。
 自分に自信がないと、ストレスの源を何とかしたいと思っても、他人の評価を気にするあまり、逃げることもSOSを出すこともできず、八方塞がりになってしまいます。
 そして、自分の能力や存在を自分で否定してしまい、いつもつらい気持ちを抱えてしまうのです。

 しかし、あなたが正しく自己肯定感を持ち、自分に自信を持つことができたら、こうした悩みに対しても、自分でいいと思える解決方法をスッと行動に移すことができるようになります。
 それがどれだけ、あなた自身を助けることになるか――。
 ぜひ、実際に体験してラクになっていただきたいと心から思います。


自己肯定感レベルを知るチェックリスト

 ここまでのお話で、自己肯定感を高めることが、仕事はもちろん、プライベートも含めたあなたの人生において、生きやすさに直結することがわかっていただけたのではないかと思います。

 では、一体あなたは今、どれくらい自己肯定感が低いのでしょうか。
 これについては、ピンと来ない人がほとんどでしょう。
 そこで、私がこれまで「自己肯定感の低い人」と数多く接してきた経験を基にして作成した、12個のチェックリストを挙げます。
 いくつ当てはまるか、正直な気持ちで確認してみてください。

① いつも自分の短所を直す方法を必死に考えている
②  できるだけ人の意見に合わせたいので、指示待ちになることが多い。または、そのほうが楽だと感じる
③ 自己啓発本を読んでも、どれもしっくりこない
④ 相手が何を考えているか、とても気になる
⑤ いつも頼れる人を求めている
⑥ 何かに失敗すると、能力だけでなく自分の存在価値まで否定的に考えてしまう
⑦ 会議など、人前で自分の意見を述べるのは苦手
⑧ 人から評価されたいから、あるいは非難されるのが怖いから、八方美人になる
⑨  何か好きなことを始めたくても、誰かに「いいね」と言ってもらえない限り行動できない
⑩ 誰かにお願いするくらいなら、しんどいことも自分で抱えたほうがラクだと思う
⑪ SNSに投稿した後、すぐに「いいね」の数が気になる
⑫ 今の自分のことが好きになれない

◆「周りの目が全て」から卒業したAさん
 いかがでしたでしょうか。
 2〜4個当てはまったら軽度、5〜8個なら中等度、9〜12個なら重度の「自己肯定感の低さ」だと言えます。当てはまる数が多ければ多いほど、それだけ生きづらさを感じる度合いも大きいでしょう。
 思っていた以上に、自己肯定感が低くて驚いている人もいるかもしれません。
 でも、心配しないでください。
 私は、今までそのような人とたくさん向き合ってきましたが、みなさんしっかりと自己肯定感を高めることができています。

 ここで、その一例としてAさん(男性・30代)のケースをお話ししましょう。
 Aさんは、現在の会社に入社して5年目の時、会社で実施されたストレスチェックの結果をきっかけに、産業医である私と初めて会うことになりました。
 Aさんには以前、うつ病を患って退職した経験がありましたが、面談でお会いした時には病状は落ち着いており、仕事もうまくこなしている印象でした。
 しかしご本人は、仕事でちょっとしたミスをしただけでもひどく落ち込み、「今の会社でも自分は必要ないのかも」など、いつもネガティブな方向に考えて、自分を責めてしまうことが「しんどい」と悩んでいました。
 また、何をするにしても、罪悪感や自己否定が根底にあり、周りと違う考えを持ったり行動をしたりすることは、「変な人だと思われるからダメだ」と強く感じている子でした。
 そのため、職場の人と一緒に昼食を食べに行くと、必ず同伴者と同じメニューを注文するほどだったのです。

◆やっと上司として動けた
 Aさんの過去の経緯、また、明らかに自己肯定感が低いことを踏まえると、再休職に至らないためにも細心の注意が必要でした。
 病状はある程度安定していたため、その管理は従来通り主治医に任せ、私はAさんの自己肯定感を上げることを一番の目的として、産業医面談を継続していきました。

 面談のたびにワークのようなものを出しては、それを確認することを続けて、Aさんの様子を見ていました。
 すると、最初のうちはランチで自分の好きなメニューを頼めなかった彼が、徐々にですが、誰かがいても、自分の好きなことを言ったり、自分の気持ち通りに行動することができるようになっていったのです。

 Aさんは、自分が思うように行動しても、誰も「変な人」だなんてレッテルを貼ることもなく、自分自身が否定されないことを実感するようになっていきました。
 これが彼にとっての成功体験となり、「ちょっとした自信」につながっていきます。
 そして、さらには自分の思いや考えを、会議で発言する勇気を持つまでになっていったのです。 それまで、たとえ相手が部下でも、多忙で余裕がない時でさえ、彼は次のように考えて、1人で仕事を抱え込んで自分を追い詰めてしまっていました。

 もちろん、常に右肩上がりではなく、3歩進んで2歩下がるようなこともありました。しかし、自分の気持ちに素直に行動できる時間が増えたため、余計なストレスを感じずに、清々しい気持ちで過ごせるようになったようでした。
 そして、Aさんが後になって「自己肯定感が上がって何よりもよかったと思えた」のが、「部下に仕事を頼めるようになったこと」でした。
 それまで、たとえ相手が部下でも、多忙で余裕がない時でさえ、彼は次のように考えて、1人で仕事を抱え込んで自分を追い詰めてしまっていました。

●部下に嫌われるんじゃないだろうか
●「あいつ、デキない上司のクセに!」と思われないだろうか
●周りからも「能力が低いから部下に仕事を任せている」と思われるかな

 しかし、自己肯定感が上がってきたAさんは、部下や周りが何を感じたとしても、まずは自分が正しいと思ったことをお願いできるようになりました。
 仮に部下から「迷惑な仕事を振ってこないでよ」と思われたとしても、「自分で全てを背負い込み、うつ病がまた悪化して休職するよりはいい」と、体裁よりも自身の健康を第一に考えられるようになっていたのです。
 自分に自信がなく、周りの評価が全てであり、評価が下がるのを恐れて、常に”いい人”を演じていたAさん。しかし、今は自ら「ありのままの自分でよい」と考えるようになり、周りの評価に怯えなくなったのです。

◆自分らしい日々はきっと訪れる
 さらに、Aさん自身も想定していなかったよい変化が起きました。
 それが、周りの人に対してイライラすることが減った、という点です。
 Aさんはそれまで、「自分が理想としていた姿を、知らないうちに他人にも期待していた」と言います。
 自己肯定感が低いと、自分だけではなく他人にも厳しくなる人がいます。
 しかし、60点の姿でも「それも自分だ」と思えることで、他人に対しても、その人のありのままを受け入れることができるようになっていくのです。

 いかがでしたでしょうか。
 このように、Aさんがワークに取り組みながら、自分自身をそのまま受け入れ、職場でも私生活でも生きやすさを手に入れていく様子を、私は近くで見続けてきました。
 あなたが、たとえ今は自己肯定感が低くて、「こんな状態を変えるのは無理だ」と思っているとしても、いつかは自分らしく過ごせる日がきっと訪れると信じていただきたいと思います。
 
 そして、そうした日を迎えるための”ちょっとしたコツ”を、次の章からお話ししていきますので、どうぞ力を抜いて読んでみてくださいね。


→【next】「CHAPTER1 あらためて自己肯定感について正しく理解しよう」

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