『婚活マエストロ』
宮島未奈著『婚活マエストロ』を読んだ。宮島未奈は本屋大賞を受賞した作品『成瀬は天下を取りに行く』の著者。成瀬2作品を楽しく読んだので、次は成瀬第3作になるのか、それとも他の作品になるのかを注視していたところ、この作品の発表となった。
なにせ、「成瀬」のインパクトが強かったので、『婚活マエストロ』の主人公も相当強烈なのかと構えていたら、それほどでもない。タイトルの「婚活マエストロ」鏡原奈緒子の物語というよりは、物語の語り手である40歳独身のウェブライター猪名川健人が主人公のようだ。
猪名川は大学を卒業して、アルバイト先のレンタルビデオ店で正社員となったものの、その後はフリーのウェブライターとして何とか生計を立てている。大学時代から借りている学生マンションにはもう20年以上も入居していて大家の田中宏とは長い付き合いになる。
猪名川はその大家の田中から知り合いの会社について紹介文を書いてくれないか、との相談を受ける。その会社は婚活パーティーなどの企画を行なっている会社であった。紹介文を書くために、彼はパーティーに参加し、婚活パーティーや婚活の業界の様相に興味を惹かれるだけではなく、そのパーティーを取り仕切る「婚活マエストロ」こと鏡原奈緒子にも興味を抱くようになる。
成瀬シリーズと同様、とても読みやすく一気に読み終えた。ストーリーに大きな波乱はなく、ごく普通の日常生活の延長のような印象だ。銀婚式を既に終えた私にはわからないが、このストーリーの中での出来事は、最近結婚をした人や婚活中の人にとっては「あるある」なのかもしれない。
よく考えると、婚活事業に携わる鏡原とその業界に首を突っ込んだ猪名川というふたりの40歳独身同士の出会いは「婚活」ではなく、昔風の出会いであって、それが何とも運命的なのが面白い。