わたしってば、喫茶店の招き猫。
「ここ、好きやと思う。」
そう友人から教えてもらった喫茶店が、出てくる食べ物といい、お店の雰囲気といい、わたしの好みドンピシャだった。
まず、お店に入る外装。
なにこのわくわく感。
内装もアンティークな調度品たちが堪らない。
様々な珈琲がある中で、「苦く重めのものではなく、軽めのがいいです」と伝えると丁寧に教えていただけた。
「マスター」と呼ぶに相応しい落ち着いた穏やかな物腰で、なんだかうれしくなった。
良い喫茶店、とは飲み物や食べ物のお味はもちろんのこと、雰囲気や働いている方の対応も含めてなのだ。
今日は、ケーキとのセットを。
普段は苦くて珈琲をブラックでなんて飲めないんだけど、喫茶店で淹れてもらう珈琲だけは別だ。
後からお砂糖を入れるにしろ、最初の数口はそのままの味を味わってみる。
珈琲の種類とか産地とか詳しいことは分からない。けれど、ドリップパックの珈琲より、喫茶店の珈琲の方が数段美味しいことだけは分かる。なんというか、ブラックでも苦味がまろやかでほのかに甘い気がする。
ほっと一息ついていると、わたしの斜め前の席で、お喋りに興じているマダムたちが目に入った。彼女たちにとって、ここは行きつけの喫茶店なのだろうか。
お喋りに興じる声がこちらまで、微かに届く。けれど、イヤフォンを付ければひとたび、もうそこはわたしの世界。いつものお気に入り作業用音楽、映画「BLUE GIANT」の作中で流れるジャズを流し、まずは日記を開く。
いつものように日記を書いたあと、読書していると、なんだか小腹が訴えかけてくる。
結構長居しているし、軽いものを注文するか、と気になったシナモントーストを。
写真がなく、文字だけだったので運ばれてきて、目を見張った。
わたしの知っているシナモントーストと違うんですけど!!!
美味しそうだけどすごいクリームの量でカロリーすごそうだな、胃に重くないかな、と心配したが、杞憂に終わる。
先ほどの、ケーキに添えられていたクリームと同じく、あのふんわりと空気を含んだクリームだったのだ。
いろんな角度からこのシナモントーストを堪能していると、近くの席のマダム二人組の視線を感じた。先ほどから、ちらちらこっちを見て、何かをささやきあっている。
でも嫌な感じではない、ささやき。
「あのメニュー、なんだろうね。」
もしくは、
「あれ、美味しそうじゃない?」
きっとこんな会話がなされているに間違いない。近くの席の人が注文して届いたものを見て、自分のメニューを決める、わたしも身に覚えがあるからわかるのだ。
そうなると、わたしが出来るミッションはただ1つ!!
あのマダムたちに、このシナモントーストを注文させること!!!
めっちゃ美味し〜!幸せ〜!!
全力で、そんな気持ちを表情筋に乗せる。
いやでも、きっとクリームが…ってボリュームにおののいてるんですよね。
わたしも最初そうだったんですよ!
けど、軽くてすごく食べやすいクリームだから、是非是非…!!
なんて、お二人にお伝えしたいけれど、わたしにはそこまでのコミュ力が備わっていないのてもう一口、二口と幸せいっぱいに頬張る。
雲のようなクリームとさくさくしたトーストはとても相性が良く、すいすいと口の中に消えてゆく。
しばらくすると、
「あちらの方の…」
とマスターに声をかける、聞こえるか聞こえないなくらいの声がささやかな声が流れてきた。
ほどなくして、お二人に運ばれてきたのは、もちろん…
たっぷりとクリームの乗ったシナモントースト!!
やっぱりクリームのボリュームが気になってか、一人一つではなく、二人で半分こにすることにしたらしい。きゃっきゃと良い笑顔でフォークでつつく様を見ていると、なんだか良い仕事をした気がして、ちょっとした優越感に浸りつつ、読書に戻る。
そして、あれ、こんなこと前もあったぞ。
とはたと手が止まる。
わたしが何かを注文したら、特に看板メニューでもお店が推しているおすすめメニューでもないにも関わらず、周りも同じものを注文する現象。
1人で行っても、誰かと行ってもこの現象はよくあるのだ。
もっと言うならば、わたしがここ空いてるな、と思って入ったカフェ・喫茶店もしばらくしたら、だんだん混み出す。
お昼時、おやつ時など特段混み合うような時間帯でなくともだ。
(むしろわたしは、ピーク時を避けがち)
最初は偶然だなあ、と思っていたが、あまりにもそんなことが多い気がする。
その人が入ると何故かお店にお客さんが増える、そんな人のことを、「招き猫体質」というらしいと最近知った。
わたし、もしかして招き猫かもしれない。
カフェもしくは喫茶店限定の。
お客さんが増えると、隣ににぎやかな方々が座られる確率も上がる。年代問わず3〜4人の女子グループだと、イヤフォンで閉ざせる世界の限界を超えてくることがしばしばあるから困る。
この招き猫体質、1人で集中して執筆や読書に取り組みたいときには今のところ、特にメリットはない。
けれど、たとえ直接言葉を交わさなくとも美味しい!と思ったものを周りの人と共有できるのは、なんだか面白い気がする。
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