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地歴うんちく判例学習・刑法1

誤振込に関する刑法判例
銀行口座への誤振込に関する事件がクローズアップしているので、類似の刑法判例(刑法判例百選Ⅱ-82)を緊急アップ。あくまで類似である点はご注意を。
【最決平成7年3月12日】
 大阪府内で起きた事案。自己の預金口座に誤振込みがあったことを知りながら、その事情を秘して預金の払戻しを請求しその払戻しを受けた場合、やっぱり詐欺罪が成立する!
ただ、民法判例とは若干、異なるので要注意。
(事案概要―1、2審判決による)
1、時は、阪神淡路大震災が起きた1995年(平成7年)の4月、場所は大阪府富田林市の地銀支店。
2、被告人は、現金自動支払機で自己名義の普通預金口座の通帳に記帳した際、心当たりのないN会社からの振込金約75万が誤って同口座に入金され、同口座の残高が92万円余りとなっているのを知った。
3、これを奇貨として金員を騙取しようと企て、同支店において、受付係女性に対し、自分には、誤送金の金額部分について預金払戻しを受ける正当な権限がないのに、その情を秘し、通常の正当な預金払戻しであるかのように装い、同口座からの払戻しを求め、受付係を誤信させ、88万円交付を受けて、これを騙し取った。
(裁判経過)
 1審、2審とも有罪判決。そこで、被告人側が詐欺罪は成立しないと上告。
(争点)
 民事上の法律関係を考えると、誤振込であっても有効な入金であり、これに応じて払戻が行われても有効として扱われるのであり、詐欺罪には当たらない。
(最高裁判旨)
 銀行実務や,払戻しに応じた場合,銀行としてそのことで法律上責任を問われないにせよ,振込依頼人と受取人との間での紛争に事実上巻き込まれるおそれがあることなどに照らすと,払戻請求を受けた銀行としては当該預金が誤振込による入金であるということは看過できない事柄というべきであり,誤振込の存在を秘して入金の払戻しを行うことは詐欺罪の「欺罔行為」に,また銀行側のこの点の錯誤は同罪の「錯誤」に該当する。
【文献種別】 決定/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 平成15年 3月12日
【事件番号】 平成10年(あ)第488号
【要旨】 〔最高裁判所刑事判例集〕
 誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求し、その払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する。
(要注意)
 民法判例では、盗難通帳による振込金を、受取人が払戻請求しても権利の濫用にならないとされた事案があるので要注意。
【文献種別】 判決/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 平成20年10月10日
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
1、受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において、2、受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては、
3、払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど、これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは、権利の濫用に当たるとしても、
4、受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは、権利の濫用に当たるということはできない。
→法律的な原因がなく、送金されて自己の預金口座に入金した金員は、著しく正義に反するような特段の事情がある場合を除いて、その預金口座を持つ者に権利があるとの判断。

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