『どうする家康』 第33回「裏切り者」 感想
概要
放送局:NHK 総合テレビ、NHK BSプレミアム、NHK BS4K
放送日時:2023年8月27日(日曜日) 18時00分~18時45分(BSP、BS4K)
2023年8月27日(日曜日) 20時00分~20時45分(総合)
脚本:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
番組公式サイト リンク
感想
第30回の感想で「『登場人物の数だけ正義や信条がある』ということをないがしろにしないのが大河ドラマの良いところ」という旨の感想を書きました。今回、その特長が家康にとって最悪の形で出ました。
前回ラスト、「この戦で『家康に勝つ』必要はない。なぜなら『敵の総大将は家康ではない』から」という旨の言葉を呟いた秀吉。そう、このドラマはもちろん日本史の授業でも「小牧・長久手の戦い」やその前後は「羽柴秀吉 VS 徳川家康」ばかりクローズアップされるので忘れがちですが、徳川方の総大将は織田信雄。その信雄が秀吉に懐柔されては家康に戦う理由がありません(その際の秀吉の言動は「これがホントの"猿芝居"か…」と思ってしまうものでしたが)。城が強固なら外堀を埋めて守れなくすればいい。「鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス」の秀吉らしいやり口です。
仮にも戦で負けた方が和議を迫るなんて。ましてや人質の要求なんて。徳川家臣、特に前回大活躍だった本田忠勝、榊原康政、井伊直政はカンカンです。誰だってそうなる、俺もそうなる。
とはいえ、今の秀吉は朝廷から関白と認められた身分。彼に逆らうのは朝敵になるも同然。仕方なく石川数正を彼の下に遣わせます。強大な味方を作り、地盤固め・外堀埋めを行ってからことを起こす周到さ、実に秀吉らしいいやらしさです。
秀吉に会った数正は、彼の存在の大きさ、言い換えれば「今や豊臣秀吉は名実ともに織田信長を上回った」ということを思い知ります。なにしろ(朝廷の影響力が強い)西国はもちろん、東国の真田をも手懐け、着々と家康や北条に対する"包囲網"を作っているのですから。
関白という"地位"もそうですが、秀吉は「味方づくりの上手さ」によって信長を超えたと思います。個人的に信長と秀吉は「基本的に他者を信用していない」「この世は『利用するか』『利用されるか』」といった根本の価値観や「アイデアと実行力をもとに成り上がった」という点では同じだと感じています。両者の違いは、信長は「人を信用しない」「使えない奴は迷わず切り捨てる」というスタンスを表に出していたのに対し、秀吉は(表向きは)そういう感じをおくびにも出さない。それどころか目的の為ならいくらでも"道化"を演じられる。本音がどうであれ、どちらがより人望や"美味しいところ"を得られるかは言うまでもありません。
数正は家康に秀吉の恐ろしさを伝えますが、家康たちは聞く耳を持たない。
「『戦なき世』を家康に作ってほしいからこそ、ここで倒れるわけにはいかない」という志はみな一緒のはず。とはいえ、そこに至るまでの道程が異なっていた。数正は「機を伺うために、そして無謀な戦で機を失わないために一旦秀吉の下につく」という道を指し示しましたが、家康たちは「自分の手で『戦なき世』を作るために、立ちはだかる秀吉と戦う」という道を見ているのでした。
先述した「人の数だけ考えがある」ゆえのすれ違いです。
後日、数正は妻子や家臣を連れて出奔。秀吉の下に寝返ってしまいました。とはいえ、これは「主君を見限った」とか「意見が合わなくて不貞腐れた」といった理由ではなく、「『最終的な勝者』を家康にするため」もしくは「いよいよとなった時に折衝役を務めるため」のように感じました。
そして、出奔前夜の家康との会話は切ない。なにしろ「弱虫な竹千代」の頃から彼を知る(現在生きている中では)数少ない家臣の一人なのですから。成長を喜ぶと同時に、家康が腹の底を見せなくなったこと、自身も胸の内をさらけ出せなくなったことへの悲しみが伺えました。