『どうする家康』 第30回「新たなる覇者」 感想
概要
放送局:NHK 総合テレビ、NHK BSプレミアム、NHK BS4K
放送日時:2023年8月6日(日曜日) 18時00分~18時45分(BSP、BS4K)
2023年8月6日(日曜日) 20時00分~20時45分(総合)
脚本:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
番組公式サイト リンク
感想
主君・織田信長の敵を取った羽柴秀吉。それを皮切りに信長の跡継ぎ争いが幕を開けます。ここでの秀吉は「もう猫被る必要ねーなw(サルだけど)」と言わんばかりに横暴。信長の孫・三法師(なんと当時3歳!)を手なずけたうえで「三法師に織田家家督を継がせる」「三法師が元服するまでは(彼に懐かれている)自分が後ろ盾となって諸々のことを執り行う」という、秀吉が実権を掌握することになる暴論を展開(前者は会議前からの既定路線という説もありますが、だとしても後者よ)。無論、柴田勝家ら反対者は現れますが、そこは「鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス」。「主君の敵を取ったものの務め」という詭弁と事前の根回しによる数で押し切り、見事"鳴かせた"のでした。詭弁含めて言動は横暴なのに、決して図に乗ることなく周到な策を練っているあたりは(ドラマとしても駆け引きとしても)流石です。
単純に増長しているかのようにも見える秀吉の振る舞い。その奥底には、自分の"生まれ"から来る強い劣等感と上昇志向がありました。貧しい農家の生まれで、そこから機転と政治力によって成り上がった秀吉。当然、彼のことを「卑しい生まれのくせに」とやっかむ声も少なくなかったでしょう。それゆえ、秀吉は織田家の血筋と実権を手にすることで、ぐうの音も出なくしようとしたのです。これまでの人生経験で「人はとかく"力"に弱い(ここでの"力"は"暴力"だけを指すものではない)」ということを嫌でも骨身にしみて感じ続けてきたんだろうなということが伺えます(実際、自分に矛先が向くことは皆無だったとはいえ、あの信長の傍にいたら嫌でも、ね…)。
かくして勝家を倒すことで織田家の実権を、茶々(お市の長女)を迎え入れることで血筋を手に入れることに成功した秀吉。次は何を欲するのか。
今回の秀吉の言動は、このドラマの特長である「人の二面性を描く巧さ」の時点で100点、そのうえムロツヨシさんの演技が150点に押し上げたなという印象です。
秀吉が我田引水に描かれているのとは逆に、勝家は実直な人物。信長亡き今でも織田家への忠義を忘れない忠臣、そしてお市やその娘(浅井長政とお市との間の子)にも愛情を注ぐ優しい夫・父として描かれていました。
勝家は「ぽっと出の秀吉を目の敵にする小人物」のように描かれがち(少なくとも僕が読んだ学習漫画はそうだったはず)なので、このような勝家像は個人的には新鮮でした。本作に限った話ではありませんが、「各人物にそれぞれの正義や理、信念がある」ということをないがしろにしないのは大河ドラマの素晴らしいところだと思います。
今回、家康の出番は少なめ。その上、賤ケ岳とは逆方向にいる真田や北条を野放しにできない状況のため、またしても愛する者(お市)を守れなかったという失態。メタ視点で言えば、ゲームで言う「溜め技の1ターン目」とはいえ辛すぎる。次回、ようやく秀吉に戦を仕掛けるようですが、果たして(史実では小牧・長久手の戦いで家康は勝つのですが、そのビジョンが見えない…)。