『参謀』 感想
概要
著者:森 繁和
初版発行:2012年
文庫版発行:2014年
デジタル版発行:2014年
発行者:鈴木 哲
発行所:株式会社講談社
Apple Books リンク
発行者による作品情報
感想
noteでは恐らく初めてとなる、漫画以外の本の感想文です。
この本自体は紙書籍として刊行された2012年に買って読んだことはあります。その後、文庫化・電子化されていて、オマケに電子版には2013年に行われた落合さんと森さんの対談が収録されているのは知らなかったです。
単独でも落合さんのリーダーとしての凄さ、自身が落合さんの右腕として・あるいはコーチや選手を統括する立場として心がけていたこと、選手として・人として成長するための心構えなどが記されており、非常に学ぶことの多い本です。
また、落合さんが監督退任直後に刊行した著書『采配』(2011年、ダイヤモンド社)とリンクする事柄も多いので、お金や時間に余裕がある方は併せて読むとより解像度が深まると思います。
あの頃のドラゴンズが黄金時代を築けた理由の根っこは「選手一人一人に至るまで、各人が『自分で考えて』取り組んでいた」ことと「その上で最高責任者(落合監督)はすべての責任を自らに課しつつ、部下(コーチや選手)の自主性を尊重し、任せるべき部分は残さず彼らに任せた」ことにあったんだな、そういう組織は強いんだな、と思える1冊でした。
前者は春季キャンプ(※1)や普段の練習、投手との会話等のエピソードで、後者は試合前や試合中のエピソードで多く伺えます。各々が「やるべきこと」を見極めた上で、それを徹底する。「一枚岩」ってそういう事なんだろうな、と思いました。
そういったもので特に印象深かったのは、監督個人でもチームでも徹底した情報管理についてです。落合さん自身コーチに「情報管理」「鉄拳制裁禁止」を掲げた以上、自分自身もベンチでは無口にポーカーフェイス、新聞等へのコメントでは選手を余程のことがない限り(褒めもしないけど)非難しないといった姿勢を貫く。最高責任者が自分の掲げた方針をブレないから、部下も自分のやるべきことを徹底する。落合監督の姿勢ゆえに相手球団やマスコミ各社に考えを読まれないというのも手伝って、強くなっていったんですね。
また、森さんって本職の道を極めた方々に負けないくらいコワモテだけど人情に厚い人なんだな、というのが各所から見て取れます。
「今でも思うのは、なぜマスコミは、あのとき(※2)、もっと岩瀬(※3)のことを褒めてくれなかったのかということだ。」という一文は初めて読んだ時ハッとさせられたとともに、(森さん自身も抑え投手としての重圧を身に染みて知っていたというのもあるだろうが)選手一人一人に愛情を注いでいたからこそ出た言葉だなって感じました。
それにしてもこの表紙、楽しげである。
注釈
「野球を知らない方々もこの記事を読むかもしれない」と考えたら注釈が多くなりました。わかる方はここから下は飛ばして構わないです(´・ω・)
(※1)キャンプ…プロ野球において「キャンプ」とは、競技期間外に球団や監督・コーチが主導して、特定の場所(基本的には本拠地以外)に宿泊しながら練習をすることを指す。主に2月1日前後から約1ヶ月間行われる「春季キャンプ」と10月下旬~11月頃から2週間ほど行われる「秋季キャンプ」がある。読売ジャイアンツの春季キャンプを宮崎県で行うのは有名。みんなでカレーを作ったり、キャンプファイヤーを囲んで「スイカの名産地」を歌ったりはしない。多分。
(※2)あのとき…2007年日本シリーズ第5戦直後のこと。第5戦で中日ドラゴンズは、8回までパーフェクトピッチング(※4)を続けていた先発の山井大介を9回から岩瀬仁紀に交代。岩瀬は三者凡退で抑え、中日は日本一に輝いたが、この采配が日本中で大きな物議を醸した。
(※3)岩瀬…元中日ドラゴンズ・岩瀬仁紀のこと。切れ味抜群のスライダーを武器に、絶対的な抑え投手(※5)として活躍した。2018年で現役引退。通算1002登板・407セーブはNPB記録。
(※4)パーフェクトピッチング…投手が四死球・失策でのものも含めて1人の走者も出さない投球のこと。先発投手が試合最終回までこの状態を維持して勝利すると、完全試合を達成したことになる。
(※5)抑え投手…主に9回に登板し、自チームのリードを守り抜く役割の投手。「クローザー」「守護神」とも呼ばれる。森や岩瀬の他には佐々木主浩(元横浜)や高津臣吾(現ヤクルト監督)、デニス・サファテ(元広島、西武、ソフトバンク)が有名。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?