2023/3/24 出版から2周年です
気づけば「忙しい人のための公衆衛生」出版から2年も経つようです。
本当に皆様、ありがとうございます。
この2年間の間に、少しずつ変化も出てきており、
教科書や参考図書として採用されたり、
初学者おすすめの本として紹介されたり。
2年目は自分にとって嬉しい変化が多かったです。
手にとって頂いた皆様に感謝申し上げます。
また、ご紹介いただいた方々も本当にありがとうございました。
(ご迷惑がかかるといけないので、リンクは貼りませんでした)
次の本について
さて、今回のことを機に多くの方から
「次の本のテーマは何にするの?」
と聞かれます。
個人的には、『書くべきテーマが見当たらない』と考えており、
その通り答えるのですが、例外なく大変驚かれます。
メンタルヘルスに関連する書籍も
組織行動に関連する書籍も
ベテラン向けも初学者向けも
数多出版されているのを見ているので、
今更そこに向かって投げなくても、、、
と思っているのですが、
あまりにもそのようなことを何度も言われるので、
最近では少しずつ
「自分流でわかりやすく書くのも面白いかもしれない」
と思うようになっています。
とはいえ当分先のことですね。
3周年の時に、少しでも情報が出せるといいな、と思っています。
読んで頂いた方への今回のオマケ:これからの社会について
さて、本書は、これまでの繰り返しになりますが、
公衆衛生の全体を俯瞰するような書籍になっています。
それは兎にも角にも「まずは全体像を理解することが重要である」ため
なのですが、この考え方はこれからの社会でより重要になるはずです。
なぜか。
それは、極めて逆説的ですが、わたしたちが、今までよりもずっと
専門性の追求を求められる時代が来るからです。
では、それを考える前に、これまでの社会を振り返ってみましょう。
まぁ、多少嘘というか大袈裟な部分はあるので、わかりやすさ重視ということでご容赦ください。
①その昔、私たちは、自分の生活のことに大半の時間を使っていました。
飲み水を汲んでくること、稲を植えること、刈ること、狩ること。
基本的な生活の時間の大半を、生命の維持活動に使っていたわけです。
②時代がすぎ、分業制が発達してきました。
あの人は稲を植えて刈る人、私は街へ物を売りに行く人、あの人は戦う人。
といった具合に、生命の維持活動に必要なものそのものを生産する人は徐々に減っていきます。
③そして、工業化が起きます。
これまでなかった働き方がうまれました。大企業労働者という生き方です。
この生き方が生まれたことで、日本においては、多くの部署を経験しながら昇格していくという働き方が広まり、一般的な働き方となっていきました。
この頃になると、人口増加とあわせて、生命維持に必要なものの生産者の
割合は益々減っていきます。
今まではこのような時代でした。
そして、サービス業などに従事する人がどんどんと増えていく時代でした。
次の時代がどうなるか、というと、専門性が求められるようになる、と
言われています。
④専門性が求められるようになるとどうなるのでしょう。
次第に、他のことがわからなくても業務が進むようになります。
他の知らない誰かが進めてくれているわけです。
これは、「何かを作っている」ときには極めて有効ですが、
「改良する」ときには極めて不健全な状態になります。
例えばです。
私がガンダムのビームサーベルをつくる専門家だとしましょう。
私はどうやったらビームサーベルが強くなるかは研究することができます。
しかし、ガンダムとのバランスは?と聞かれたら皆目見当がつかなくなります。「ガンダムとは?」「そんなことは知らん。担当に聞け」と。
なぜなら私はビームサーベルの専門家なのですから。
つまり、分業制をつきつめていくと、
全体における自分の位置が見えなくなってくるのです。
そこで考えられる生き方は2つ。
1)全体が見えて、専門性も持つ専門家
2)全体が見えなくても、とてつもない専門性で他を圧倒する存在
という生き方の2つです
1)この生き方は、おそらくこれから最も求められる生き方でしょう。
今風な言い方をすれば"アーキテクト"になります。
「あの人はこれができる人」「あの資格があるなら、あれができるだろう」
「この手の仕事では必ずこうしないと失敗するし、嫌がられる」
「今の技術では、これはできるが、あれはできない、ことがわかる」
そして、「自分も◯◯の専門家である」という人です。
ですから、広い視野を持った上で、深い専門性も持っている、
これが専門性が求められている時代に最も求められている能力でしょう。
2)の生き方は、例えば忍者や傭兵のような生き方です。
会社の中で、どうしても必要な技術があり、それは1)の人でも持っていない技術であり、その技術はさらに狭く深く掘り続けている人でなければ獲得し得ない技術である。
そういう技術を持つ、独立した外部専門家(集団)、という生き方がこのような生き方でしょう。
武将で例えていうなら、呂布、チンギスハン、ナポレオン、本田忠勝、こんな人たちがいる集団と考えれば良いでしょう。
そして、これからの生き方を考えたときに、
ほとんどの人は最初は1)の生き方になるはずです。
どこかで2)に移ることもあるかもしれませんが、
いきなり2)になることは「才能x環境x運」と揃わない限りあり得ません。
少し話が逸れました。
医学の話に戻して考えると
2)はどんな人かといえば、
「何だかわからないですが困っています」という人を対象にはせず、
「先生にしかできない手術です」という紹介された人の手術だけを
ひたすらこなしている人です。
こんな医者はごく限られていることを皆様はよくご存知だと思います。
一方、1)は
内科、外科、マイナー科、公衆衛生満遍なく知っていて
困ったときにどこに相談すればいいか知っている。
そこでどんなことが行われているか知っているので
適切な判断が下せる
そんな人材です。
ですから、他科や公衆衛生についても、一定深く学ぶことも重要ですが、
まずは俯瞰し、例えば公衆衛生が医学や社会においてどのような位置にあり
そして、公衆衛生の分野の中でもそれぞれがどのように結びついているのか
それを知ることが重要なのです。
そして、それを効率的に学ぶことができるのが本書なわけです。
(唐突な宣伝)
すなわち本書のゴールの1つは、臨床に進んだ先生方が臨床の場面で
「あー、こういうケースは公衆衛生(or 行政)の仕事だよなぁ」
と思って頂く瞬間をつくることです。
アインシュタインは言いました。
学んだことを、一切忘れた時になお残っているもの、それこそが重要なのだ
と。
皆様の記憶のかけらを作るお手伝いを本書ができれば幸いです。