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事業が解像度高くユーザー体験を捉えることの意義

この記事は Goodpatch Anywhere Advent Calendar 2024 1日目の記事です。

この記事はデザイナーに限った話題ではなく、UXに関わる様々な方に向けて提供する話題です。

ユーザーを解像度高く理解することは施策の成功率を上げることにつながる

ユーザーのことを知る前の施策よりユーザーのことを知ってから打ち出す施策の方が高いヒット率を生み出します。これはUX文脈でもマーケティング文脈でも同じです。

ユーザーを解像度高く理解し適切な施策を提案するために「理解 > 企画 > 実装 > 検証」のサイクルを回し、施策の成功率を上げるのが2024年現在のユーザー体験に関わる人の役割です。デザイナーだけがUXに関わる時代は終わっています。

UXを大事にしているがゆえに

サービスやプロダクト界隈ではUXに関わる人たちが増え、カタログスペックだけではなくUXも大事にされるようになりました。「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」はデジタルプロダクトの正義として当然のものとして扱われています。

しかし、ユーザーを中心に据えて「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」を追いかけても、よいサービスやプロダクトから遠ざかってしまうことがあります。

例えば「シンプル」。

「わかりやすい」の実現に「シンプル」は有効な手段です。シンプルにすることはメッセージや導線のフォーカスポイントが明確になったり、ユーザーの認知負荷が下がって余裕を持ってサービスを利用できるようになったりと多くのメリットがあります。

ただし、シンプルさを追いかけすぎることがデメリットを生むことがあります。

「シンプルにするために一度に見せる情報を減らそう」
→ユーザーは複数の情報を見ながら作業したかった

「シンプルにするためにユースケースに合わせて1つの画面でできることを1つにしよう」
→ユーザーは自分の手順で作業したかった

「シンプルにするためにアイコンのラベルは省こう」
→何を示すアイコンなのか理解されなかった

シンプルにするのは良いことですが、ユーザーの文脈や知識に寄り添わずシンプルを目指してしまうと、例のように「わかりやすい」「使いやすい」を実現できない場合があります。ユーザー体験への意識が高いにもかかわらずユーザー体験の解像度が低かったり知識が少ないと、ユーザーにとって適切なシンプルさを設計できません。

「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」とスケジュールや予算などのプロダクトマネジメントもしくはビジネスゴールが対立する現場もあります。理想 vs ヒト・モノ・カネ。デザインにかかわらずビジネスの現場でよく見る光景です。

理想の体験をユーザーに提供するために、機能・デザイン・パフォマーンスいずれにもこだわりたくなります。しかしヒト・モノ・カネは有限です。

プロダクトやサービスは社会実装して初めて価値がユーザーに届きます。ヒト・モノ・カネをどう活用し、ユーザーへ価値を最大限に提供する方法を考えることが重要です。

みなさまも以下のような判断が必要な現場に出会ったことがあるかと思います。

■より優先的すべき課題がある
便利な機能を実装する
→ ユーザーが出会う頻度の高いバグを修正する

■ より磨き込むべき体験がある
カスタマイズ性を高める
→ 動作速度を向上させる

■簡素でも事が足りる
可読性の高いヘルプページ
→Notionを使ったヘルプページ

上の例は正解というわけではなく、あくまで判断の一例として捉えてください。「シンプル」と同じように、何に注力するか判断するためにはユーザー体験を解像度高く捉える必要があります。

何に注力するかの判断こそプロダクトマネージャーの腕の見せ所ではありますが、判断そのものではなく、ユーザーに関する情報をいかに集め、チームがユーザーを解像度高く捉えられる環境を作ることもプロダクトマネージャーの仕事かなと思います。

ユーザーを解像度高く捉えられると「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」が絶対的正義ではなくなります。

「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」というワードの厄介なところは、それぞれのワードが一定の正義性を持つので否定しにくい点です。「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」という解像度の荒い視点は、具体的な議論や改善点の特定を困難にします。適切な議論をするためにも、解像度高くユーザー体験を捉えることは重要です。

ユーザーの体験を作る仕事をしている人が目指す方向性である「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」。ユーザー体験を分解し、より解像度高く捉え、目指す方向性をより磨き込むことで施策のヒット率が上がっていくはずです。

瞬間と時間軸

ユーザー体験は瞬間ではなく期間、点ではなく線で考えるべきものです。UX白書の「ユーザーエクスペリエンスの期間」で線の全体像が示されています。

カスタマージャーニーマップは、ユーザー体験を時系列で捉えるための成果物です。カスタマージャーニーマップではユーザーの文脈に合わせて感情の変化や学習ステップが時間軸で見える化されている必要があります。

しかし、変化の流れや学習ステップのような「利用文脈」と「積み重ね」が見えない、作業のステップと「大変だった→簡単だった」というような背景の見えない感情曲線で作られる、いわば点の体験しか見えないカスタマージャーニーマップを稀に見かけます。

学習のステップ、感情の揺れ幅、習熟度、利用状況など前後の体験を捉えなければ適切な施策を検討できません。

ユーザー体験を「わかりやすい」「使いやすい」「うれしい」「便利」などの抽象度が高く点の状態しか表現できない言葉でコミュニケーションすると、体験を点で捉える癖がついてしまい、結果として前後の体験をないがしろにしやすくなります。

ただし、ユーザー体験の時間軸を言葉だけで表現するのは難しいです。図や表を積極的に活用しましょう。

不鮮明な検証対象

ユーザー体験に関わる方なら、プロダクトのわかりにくさについて議論したご経験があるかと思います。当然議論の目的はわかりやすくすることです。

ここまで述べてきたように「わかりやすい」「わかりにくい」という捉え方だけではユーザー体験の解像度が低く適切な施策を考えることができません。

ユーザー体験の解像度はUXリサーチにも影響します。解像度が低いと「わかりやすかったですか?」「使いやすかったですか?」と直接的にインタビューをしてしまい、ただ成否の答え合わせするUXリサーチになりがちです。

UXリサーチはインタビューイーへの問いかけを工夫しながら「どんな前提なのか」「なぜそう行動したのか」「何を目指しているのか」を掘り下げ顧客がどんな文脈を持っているか見つけることを目指します。そうすることでユーザー体験の解像度も上がっていきます。

リサーチから適切な学びを得るためには、そもそもとしてユーザーを解像度高く捉える目が必要です。

ユーザー体験を解像度高く捉えるには

ユーザー体験を解像度高く捉えるには知識と応用力が必要です。

知識が無いと解像度は上がりません。知識があるからこそ解像度高く物事を捉えられます。実践訓練だけで解像度が上がりません。

学んだ知識の応用力も必要です。今回の記事では解像度を高め具体化することの大切さを話題にしてきました。応用力は逆に具体的な事象から共通点を見つけ、他の事象に適用する能力です。

応用力は知識と相互関係があります。知識を得て、活用し、その経験が頭の引き出しを増やすことにつながります。

ここまでユーザー体験を解像度高く捉える重要性を話題にしてきましたが、UXのエキスパートはユーザーのあるあるをたくさん知っています。業務システムなら、ファンマーケティングなら、ECサイトなら、などドメインによっての基本体験をユーザーの文脈を複数知っているのでユーザーのパターンがなんとなく読めるのです。これが応用力です。

もちろんUXのエキスパートはそのパターンがバイアスであることも理解しているので、パターンを活用しつつファクトを確認するためのリサーチ設計やプロトタイプ検証を計画することになります。

リサーチの目的は評価や答え合わせではなく、発見である

ユーザー体験を解像度高く捉えるためのリサーチの目的は答え合わせではありません。

ユーザー体験を解像度高く捉えると施策のヒット率が上がります。そのためには施策を考える前にユーザー体験を解像度高く捉える必要があります。

施策の答え合わせや評価として実施し、その結果が良かったのか悪かったのかを検証するタイプのユーザーリサーチでは、施策の良し悪しはわかってもユーザー体験を解像度高く捉えるには情報が足りないかもしれません。

UXのリサーチャーが、ユーザーの文脈や心の動きを把握しながら施策の反応を遠回りに聞くのは、施策の良し悪しではなくユーザー体験を解像度高く捉えることを目的としているからです。

施策の良し悪しではなく、ユーザーそのもののことを知ることができれば、それはサービスやプロダクトにとって示唆となり、ナレッジとして重要な資産となるはずです。

情報資産としてのユーザー体験と価値生産システム

ここまで話題にしたとおり、施策のヒット率を高めるにはユーザー体験を解像度高く捉える必要があります。ユーザー体験を解像度高く捉えているサービスやプロダクトほど成長が期待できます。

ユーザー体験を解像度高く把握することは、企業の価値生産システムの一要素です。

ユーザーを解像度高く理解し適切な施策を提案するために「理解 > 企画 > 実装 > 検証」のサイクルを回し、施策の成功率を上げるのが2024年現在のユーザー体験に関わる人の役割であると最初にお話しました。このサイクルは企業の価値生産システムそのものです。人的資産と同様に、ユーザーの情報は企業にとって重要な資産となります。

ユーザーの情報が企業にとって重要な資産ならば、デザイナーやエンジニアのようにコードやデザインデータで実際に資産を生産するスタッフと同様に、ユーザー体験を解像度高く把握し事業に還元する人材もユーザー情報資産を積み上げる生産系のスタッフであると捉えることができます。

誰がやるか

すぐ思いつくのはUXデザイナーです。

しかし、価値生産システムに必要な資源としてユーザー情報を捉え、ユーザーを解像度高く把握し事業に還元する仕組みを考えられるUXデザイナーはそう多くはありません (もちろんいます)。

今回長くなるので取り上げることはできなかったのですが、コールセンターやお問い合わせの情報、アクセスログなどユーザー体験に関する情報資産は多様にあります。そのため専門家同士の連携が必須です。

一定の権限があり、かつプロダクト全体に影響を与えられる存在が適任です。プロダクトマネージャーや事業の責任者とUXデザイナーを中心に、マーケター、プロダクトを開発するエンジニアやデザイナー、カスタマーサクセスのスタッフと共に推進することが求められるでしょう。

もしあなたがプロダクトマネジメントやビジネスを推進する立場であれば、チームでユーザー体験を解像度高く捉え、その結果や取り組みを蓄積し、誰しもが学べる仕組みづくりが必要となるでしょう。そうすることで、事業がユーザーへ価値を届けるための価値生産システムがより強固になるはずです。

一度に大規模な仕組みを作るのは難しいので、UXリサーチから、お問い合わせからなど、できそうなことから小さく始めることをおすすめします。

事業が解像度高くユーザー体験を捉えることの意義

事業としてユーザー体験を解像度高く捉え、蓄積し、活用できる仕組みが施策のヒット率を上げることにつながります。こうやって積み上げたユーザー体験の情報が資産となり、人材と共に価値生産システムに必要な資源となるはずです。

事業が解像度高くユーザー体験を捉えることは、その事業の価値生産システムをより強固にできることだと私は考えています。



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