First Day of My Life
あっという間に今年が終わってしまう。2023年ってなんだったんだろう。
成長とか、変化とか、そういうものでラベルをつけて振り返る人たちを横目で見ながら、今日も一人で最寄りのコーヒー屋さんで仕事をしている。
今日は朝から雪が降った。雪の日は景色が真っ白になり退屈なので、音楽を聞きながら歩くことにしている。
最近は翻訳やコーチングの仕事のかたわら、友達の作曲した音楽の編曲を手伝っている。フォークギターと歌だけの音源に僕が後から楽器を足すスタイル。弾き語りの音源を聞いたときに僕の頭の中に流れるエレキギターとかベースとか、キーボードとかオーケストラとか、そういうもののかけらを実際に演奏してみて、しっくりするものを付け足していく。そのために、音楽を聴く時はアレンジのヒントを探して聴くことが習慣になっている。
雪の中を歩いていると、Bright EyesのFirst Day of My Lifeが流れる。コナー・オバーストを中心としたアメリカ ネブラスカ州のバンドで、90年代終わりにエモの文脈で熱狂的なファンを作ったバンドだ。コナーのボーカルと感傷的な歌詞が特徴的で、98年のLetting Off the Hapinessが初期の代表作。2005年のI'm Wide Awake, It's Morningでは歌を中心とした落ち着いたアレンジになり、コナーの歌声がさらに魅力的に聞こえるようになった。
First Day of My Lifeのアレンジはごくシンプルで、フォークギターが2本と、コントラバスが長い音で安定感を与えている。Bright Eyesの特徴であるボーカルを最大限引き立てるアレンジだ。2本のフォークギターの在り方は、役割がちゃんと分担できていないようなどっちつかずの感じがする。でも、2本のギターがそれぞれ同じような、少し違うようなことをしているのは自由さと遊び心、そして親密さを感じて、とても心地よい。テンポもラフで、親密な関係性の中で自然に生まれた歌であることを彷彿とさせるレコーディングだ。邦楽ではあまり出会わないアレンジ。
このアレンジは、今制作している曲には合わないかな、もう少しギターが技巧的でもいいかも、そんなふうに頭を使って聴いていると、ハッとする。
この曲は、愛の歌なのに。
コナーの傷ついた天使のような歌声と歌詞が本当に素晴らしくて、真実の愛について歌った歌。真実の愛というものが本当にあるかはさておき、真実の愛だと感じるものの歌。
大切な人との出会いによって世界の質感が全く変わってしまって、今までの人生がなんだったのか思い出せないくらい自分に力が湧いてきてしまう、秘密にしておきたいような、世界を抱きしめるために走り出してしまいたくなるような、未来のことはわからないけど目の前の人の存在がすべての価値であるとはっきりとわかってしまったような、自分の感情の歌なのに。
目の前の景色なんて見えなくなって音楽に没頭して、歩きながら泣いてしまうような音楽の聴き方を、いつからか、できなくなっている自分に気づく。First Day of My Life は大好きな曲だったのに。
ヨーロッパの言語クラスで出会ったベーシストが言っていたことを急に思い出す。人間は30歳くらいまでで音楽の嗜好性が決まってしまって、それ以上は新しい音楽に感動することが難しくなるらしい。
そこにあるのは、自分の年齢と、年齢のせいにして、音楽から遠ざかっている自分だ。
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