空區地車の力学 3.地車にはハンドルがない
その2ではブレーキがないことを書きましたが、その3ではハンドルがないことを書きます。
地車の各部名称
その前に地車の各部を確認しましょう。
上図のように神戸型の地車は「土呂台(どろだい)」という土台に4つのコマがついています。土呂台の外側にコマが付く「外ゴマ」は神戸型独特のものです。一方、大阪型といわれる地車は土台の内側にコマが付く「内ゴマ」となっています。
また、空區地車は「かき棒」の下に「棒鼻(ぼうばな)」が付きます。通常は「棒鼻」の上に「かき棒」がくるのですが、逆になっているのは空區地車が大きいが故のことで、曳き手の力が発揮できるよう胸の位置にピタリと「棒鼻」がくるようになっています。
地車にはハンドルがない
地車にはハンドルはありません。しかも地車の走る道は平坦な直線ばかりではありません。時には直角に曲がらなければならない場合もあります。
ではどのようにして方向を変えるのでしょうか?
❶真っすぐに進んだようでも徐々に逸れてくる
地面は均平ではありません。また、多くの曳き手が様々な力加減で曳くので、地車はまっすぐ進みません。地車は次第にズレていき、気が付くとガードレールに迫るということになります。迫ってきてから勢いをつけて地車の方向を変えるのはイキではありません。まるでレールの上を走るがごとくスムーズに進ませるのがイキというものです。
❷微調整の方法
下図のように前と後ろの曳き手が逆の方向に力を加えることで地車は方向を変えてくれます。ですから前の両サイドと後ろの両サイドの曳き手は常に微修正に力を注ぎがねばなりません。これを怠ると、地車は確実に曲がっていきます。
ここで大切なことは、地車の前後で棒鼻の中に入っている曳き手はあくまでも前進方向に力をかけて地車の推進力を殺さないこと(下右図の赤矢印方向)。方向修正の力をかけるのは、地車の両サイドにいる2~3名でよいのです(青矢印)。
下図のように進行方向に対して右に微調整する場合は、前の曳き手は右方向に、後ろの曳き手は左方向に力をかけてやると地車は緩やかに右方向に進みます。ただしあまり大きな力が加わると予想外に方向が変わります。微調整は早め早めに、緩やかな力加減で行なうのが理想的です。
ほんの微調整であれば、地車の前の曳き手がかき棒に体重を寄せる程度でも十分できます。見た目にも曳き手がバタバタと動くのは美しくありません。
したがって、地車の前両サイドにいる曳き手は、常に進行方向を把握して早め早めに力をかけて微修正を繰り返します。後ろ両サイドの曳き手は、自分の前の曳き手に動きがあれば、それと逆方向に力をかけます。こうすることで地車にダメージを与えずに微妙な方向修正ができるのです。地車に無用なダメージを与えないことも曳き手にとって重要な作法です。
❸「うちわ」「提灯」で合図
地車が進行方向に対して左右どちらかにズレてきたら、指揮者から四隅責任者経由で合図があります。
指揮者は「提灯」を振り指示を出し、それを見た四隅責任者が若中に伝えます。
四隅責任者が独自の判断で指示を出すときは、腕を広げて方向修正したい方向を指したり、「うちわ」を使って合図が出されます。前からの指示を受けた後ろの四隅責任者は「ちょっと右に張ろか」と声で指示する場合もあります。「張る(はる)」とは力をかけると同じ意味です。
屋根にも屋根頭という責任者がいます。屋根頭は地車を俯瞰で見れるので、指揮者と常にアイコンタクトを取っていなければなりません。子供会の綱が出ている場合は責任者との距離が遠いので、前の四隅責任者とアイコンタクトを取ることもあります。このように地車の安全を守る上で屋根頭が果たす役割は重要です。
指揮者からバタバタと指示が出るようでは、曳き手としては”まだまだ”です。
❹指揮者から方向修正が出た時
かなりの緊急時は、四隅の責任者から「張れ、張れ!」と怒声が響きます。
その場合の要領は、❷微調整と同じですが、地車の前後の両サイドにいる曳き手全員が力を合わせて押し引きします。
ここで注意しなければならないのは、棒鼻の中に入る曳き手までが方向修正に力を注ぐと、思いもかけず地車が大きく動くことがあります。地車前後の両サイドの曳き手は、その反動で地車と障害物の間に挟まれる危険があります(下図・破線円内の曳き手)。やはり地車の両サイドには地車の動きをよく知る若中が付く方がよいでしょう。