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空區地車の力学39.地車バカを分類

地車バカにはいくつかのタイプがあります。大きくは以下の7つでしょうか。

①曳き手
地車を曳くのが好きで、触っているだけで満足という種族。かくいう私もこのグループに属します。
初めて地車に参加すると大抵の人はここからスタートします。しかし、触っている間にどんどん地車が好きになる部署で、「曳きたい」「曳いて見せたい」、あげくに「俺が曳いているから動いている」と自信過剰の輩へと成長していきますが、大いに結構!

勘所さえ押さえれば曳けるようになるのですが、実は奥の深い部署でやればやるほど疑問がわいてくる部署でもあります。なぜなら一人の力では重さ4トンの地車は動かないからです。
どうすれば息が合うのか?
どうすればキレの良い、イキな動きになるのか?
どうすれば宮入で地車を落とさず回し続けられるのか?
まさに「One for all All for one」が問われる部署です。
衣装は法被にお腰、地下足袋。黒の法被が汗で塩となり白のしみがつくくらい曳いて一人前の曳き手といえます。

② 屋根方
屋根で踊るのが好きで、根っからの"目立ちたがり屋さん"のグループです。屋根に自力で登れれば誰でも屋根方なので、空區でも最近は初めて地車に参加する高校生が屋根に上るようになり、提灯を落としたり、命綱で宙ぶらりんになったりと、一波乱起してくれます。現在は個人もしくは小グループのお友達数組が屋根方となっているので、残念ながらまとまりがないのが実情です。
屋根方のビックボスである”カリスマ屋根頭”の登場を待っているのですが、今のところ育っていないようです。子供会から地車に触れる地元の青年が良いのでしょうが・・・
「自分に限っては絶対に屋根から落ちない!」という不毛の自信で無茶をする若者が多く、一波乱も二波乱も起きています。しかし、万一屋根から落ちてしまうと命の保証すらありません。また翌年以降、地車を出せないということも起こりうります。

2022年例大祭の屋根方を見ると、屋根で休憩している姿が目につきます。鳴り物が鳴り続ける間は、屋根方は踊り続けるのが流儀なので、そこんとこヨロシク!
そういえば屋根に上っていない屋根方が地車の後ろを携帯を手にゾロゾロついてくるのもいただけません。「う~ん、本当に地車が好きなの?目立ちたいだけ?」と言いたくもなるのですが、曳き手同様せめて黒の法被に潮が吹いて白いシミがつくくらい精を出してほしいものです。
ちなみに屋根方は、高校生以上の青年が大部分ですが、空區には65歳を越えてなお宮入時に屋根に上る猛者もいます。足掛け50年は屋根に上り続けているので、こういう大先輩の助言を聞く耳を持つことが新人屋根方だけでなく、屋根頭にも求められます。
衣装は空區の法被に腰巻、地下足袋です。

青年は屋根方、女性若中は提灯を持って地車後ろに乗るのが憧れ

③ 鳴り物方
地車のグループの中で最も統率が取れているチームです。鳴り物は一見さんでは叩けません。練習に練習を重ね、実践を踏んで初めて宮入で神さんに気持ちよく昇天していただける鳴り物方になれます。
叩き方は先輩から後輩へ、体を使って伝えられるので、後輩は先輩を慕っていますし、先輩も後輩をとても可愛がっています。また、鳴り物方は女性若中も受け入れているので、小学校高学年になると鳴り物方を目指す女子も出てきます。鳴り物方は若中一の縦社会ですが、一方でジェンダーギャップ指数は相当に高く、服従ではなく愛がそこにあります。
他の部署から鳴り物方への暴言はなく、若中の中でも一目置かれる部署です。

私には高校生時代、吹奏楽部でドラムをたたく友人がいましたが「吹奏楽部の花形はトランペットやろ!なぜにドラム?」と、ついぞ吹奏楽部におけるドラムの面白さや重要性は理解できませんでした。しかし、大人になって地車の曳き手の面白さを理解するようになって、地車の鳴り物の重要性を理解するようになりました。
よく言われるのですが、吹奏楽のドラムとロックバンドのドラムは違います。吹奏楽部のドラム(打楽器)にはアンサンブルする人数がロックバンドに比べ多いので、音量のコントロール、特に小さく抜ける音が求められます。一方ロックバンドのドラムは1人なので、馬鹿でかい音量がカッコいいとされます。
地車の鳴り物は、打楽器が「大太鼓」「小太鼓」「半鐘」「二丁鐘」の4つで構成されています。ですから強く叩くのがカッコいいのではなく、音量のコントロールが求められます。鳴り物の強弱で曳き手は曳きながら高揚したり、一服したりできるのです。つまり心のコントロールを鳴り物がしてくれる、だから重要なのです。
衣装は空區の法被(地車の中は暑いので空區オリジナルTシャツ)にお腰、地下足袋ですが、指にはバチ摺れを防ぐテーピングをしているので一目でわかります。

④世話役
浴衣を着て地車に乗るのが好きな種族。最初は後ろのテコを担当しますが、50歳を超えて体力が落ちてくると、体より口が先行し、祭りを仕切る方に回ります。ただし、この方々がいないと地車は出せません。警察や役場への交渉、地車の修理など1年を通じて献身的に動いてくれるからです。
世話役には、「空區内の取りまとめグループ」と「住吉地車8台の代表からなる振興会グループ」がありますが、どのようにして己の進路を決めているのか、残念ながらこのグループに属さない私にはわかりません。
衣装は浴衣に雪駄か地下足袋。2つのグループの浴衣の紋様は異なりますが、皆さんイナセに着こなしています。特に帯とその巻き方は秀逸です。

各区地車の世話役たち、帯の巻き方がイキ
ほとんどが地元出身者

⑤年寄り
超年配(80歳以上?)で超経験者の世話役を親しみを込めて”年寄り”と呼びます。相撲でも元力士が引退後も協会に残り、運営に携わるには”年寄名跡”を取得しますが、あの年寄りと同義語で、お歳を召した老人ではありません。それどころか青年並みの体力の持ち主の方も多くいます。
しかし、自力で地車に乗れないようになると、宴会の部のみの参加を表明します。もちろん宴席では一等席が用意されます。
昔は要職につかれた方々ばかりで、高齢になっても地車が好きで好きでたまりません。鳴り物が鳴り出すと、どこからともなく浴衣姿で現れます。
地車前で華麗に踊る粋人も空區にはおられます。昔の仲間と酒を呑み交わしながら、地車愛を語るレジェンドたちで、奥深い話が聞けます。
空區には昭和の空區地車の記録映画(8mm)が残っていますが、クレジットを見ると”監督”はプロではなく若中の年寄り(すでにお亡くなりになっています)であるレジェンドが撮影・編集・監督まで行なっており、玄人はだしの良く出来た記録映画となっています。

地車の行くところ、この人あり!
80歳を越えてなお華麗なる踊りで地車を先導するレジェンド・守口のオジキ(右の浴衣姿)

⑥地車がモノとして好き
地車の幕や提灯・彫刻・錺金具(かざりかなぐ)・大工・地車の歴史など地車自体をこよなく愛し、造詣も深い方々です。
年齢的には法被と浴衣をケースバイケースで着こなす方々で、浴衣を着て地車に座るのではなく、法被を着て曳きたいという方々も多くいます。
私が本気で地車を曳き始めた頃から空區にはこの方面のスペシャリストがいらっしゃいます。いわば「だんじり博士」です。地車のことなら何を聞いても応えてくれます。
特に飾り付けの仕方や、修理の時の大工さんの手配などはこの方々にお任せするのが一番。若手はどうしても曳いたり、屋根に上ったりが主になるので、ある程度の年齢にならないとこの領域には入ってきません。
私もスペシャリストではないので、飾りについては聞きかじりの浅い情報です。あしからず。

だんじり博士
いくつになっても地車に触れているだけで幸せなレジェンド
地車をこよなく愛するレジェンドたちは
気になると補修をするのでいつも地車は準備播但線!

⑦裏方さん
これ以外にも前回触れた”警備”や”まかない”などを献身的に行なってくれる「The 裏方さん」がおられます。

誰の子供さんかわからないが私の膝に収まる男の子(最前列右)

地車は縦社会の良さを教えてくれる
学校では縦社会の弊害を説き平等を尊びますが、危険を伴う場合は縦社会が必要になります。例えば自衛隊や警察、消防などは指揮命令系統を一本化するために縦社会にし、危機回避をしています。
地車もまた危険を伴うので良い意味で縦社会です。
子供会の法被から若中の法被になり、世話役になると浴衣を着て提灯やウチワを持つようになります。
浴衣を着た経験豊富な年寄りを、法被を着た若中が敬う。口うるさい年寄りの助言を黙って聴く。年寄りに「今年の鳴り物は良かった」「宮入は空區が一番やな」などと誉められると全員がよろこび鼻高になり、「今年の宮入はイマイチ」「空區若中にしては行儀が悪い」などと苦言が飛ぶと「クソっ!」と全員が静かに燃える。ガチャガチャとうるさい小学生ですら、目上の若中の言うことは黙って聴いている。お茶を運んだり、年寄りに料理を運んだりと甲斐甲斐しく動く。
曳くことは楽しいのですが、危険も伴うので縦社会が必要なのです。確かに縦社会は弊害も多々あり、人間関係を窮屈にする危険もはらんでいます。若中とて同様の危険をはらんでいます。しかし、素直さがあれば、ただ曳くために集まってきた人々に、経験者が危険と楽しさを教えてくれます。
祭りは縦社会のメリット、デメリットを教えてくれるのです。子供を持ったら、子供を子供会に参加させ、自分自身も協力する。こうすることで地域社会に溶け込め、家族の安全と安心、子供の成長を見ることができるのです。

祭りに参加した時の写真は
将来、大きな意味を持つと確信します!

#神戸市東灘区 #空區地車 #空區 #だんじり祭り

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