【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.3.14)
なんか大変なアレコレで世はまさに大無料公開を時代を迎えているようですが、残念ながら私は刃牙もワンピースもサイケまたしても結界師も全部既に持っているので、ジャンププラスの原初の邪悪こと『声優ましまし倶楽部』を読んでいるのでした。で、先の記述とは矛盾するようですが、TLの気圧に負けてワンピースもチラチラ読み返してしまっていたり……。ワンピース、リアルタイムで読んでいた頃は(いや、今もリアルタイムも読んでるんですけど……)ルフィに対してどうも思っていなかったんですが、今では作中で一番好きなキャラですね。気合いの入った狂人は実にいい。己の意思を妥協なく押し通すエゴイスト。相手を殴りたいと思ったら針マントも気にせず殴る男。「仲間を大事にすべき」という規範に従っている部分は少なく、そこにあるのはどこまでも「自分が仲間を大事にしたい」という意思なんですね。ゆえに「仲間を殺したい」と思ったら容赦なく殺す。ウィスキーピークのゾロとかそういうことでしょう。麦わらの一味について、全然海賊ではないという評をよく耳にしますが、海賊かどうかはともかく、アウトローではあると私は思います。こんな常軌を逸した悪漢と一緒にしたら冒険家のノーランドさんがかわいそうだよ。
鋼鉄都市/アイザック・アシモフ、福島正美
最近、新しめのSFを連発して読んでいたので、ちょっとオールドスクールを学んでおこうというそんな感じのチョイス。帯にツンデレって書いてあるけど、これツンデレなのかなあ……。ダニールはどこまでもただの道具だし、ベイリさんの態度の変化を歩み寄ったと称するのはあまりにも無茶でしょう。いやほんと、心情軟化の理由づけであんな直截的なもん持ち出してくるのひっでえよ(おもしろいの意)。唯物論の権化、SF的合理精神の怪物……これが、この男が、アイザック・アシモフ……!と震えあがった。むしろ、ベイリさんがナチュラルなままには「デレなかった」ことに肝があると思うので(ダニールは道具なのでデレるもへったくれもない)、個人的にはこの帯は解釈違いですね。しかし、古典SFは今読むと古臭いところと、今読んでも新しいところが入り混じるのが大変楽しいですね。令和の時代にロボットの固有名詞を「ロボット」で押し通す小説はなかなかお目にかかれない……。あと、個人的にSFとして一番おもしろかったのは、閉鎖管理未来都市でも主婦が井戸端会議やってるところですね。センス・オブ・ワンダーだと思います。オンリー・ユーの宇宙船でスキヤキ食ってるシーンみてえだ。
巴里マカロンの謎/米澤穂信
異常な個性を持つ高校生男女が、模範的な小市民ぶろうと頑張る青春ミステリ、〈小市民シリーズ〉の11年ぶりの新作。発売に先立ち、砂を口中に含みじゃりじゃりと噛む予習を欠かさなかった私ですが(米澤作品の読後感は砂を噛んだようなものが多い)、いざ読んでみるとめちゃくちゃハッピーな感じであり、よ、米澤……!お前、11年の間に浄化されちまったのか……!?となりました。いや、個々で見ると大概なんですけどね。表題作とかね。しかし本当に作問がうまい。日常の謎って、殺人事件ネタと比べて定型が少ないこともあって「謎の魅力」が優れていると思うんですよね。ケレン味や派手さがない分、質の高さで真正面から勝負することになるというか。個人的な感触ですけども。あっ、あと余談ですけど、米澤作品のアニメ化は〈古典部シリーズ〉一本で絞るより、色んな短編集から色んな話を拾ったオムニバス形式でやって欲しかったんですよね~。やってくれないかな~。「玉野五十鈴の誉れ」とか絶対映えると思うんですよね~。お商売としては、まあ、古典部で統一するのが正解なんでしょうけども。
キャサリンはどのように子供を産んだのか?/森博嗣
出生能力を失った人類が人造人間や人工知能と共に暮らす未来を描く、WWシリーズ四作目。タイトルに反して、作中で延々と論じられるのは「キャサリンは密室からどのように抜け出したのか?」というどこかで見たことのある問題であり、それはまるでミステリのようであり……。しかし、まさにその、これを「ミステリのよう」と具体化してしまう(さらに言うならば、同作者のデビュー作『すべてがFになる』との類似性に目をむけてしまう)読者の行動こそが、現実とバーチャル/人間と人工知能というものを描き出すギミックの一部として作品に取り込まれているのです。タイトルに対する解答が示されることで、初めて二つの問いが同じことを問うていたのだとわかるということ。そして相変わらず天才・真賀田四季・GODの態度はなんか偉そうでなんかムカつくなということ。グアトさん、四季の話題になるといつも露骨に早口になるのよくないと思うよ。ロジさんがなんかちょっと微妙な表情になってんじゃねえか。トリッキーな構成にややエンタメ寄りの内容と、WWシリーズの中では一番おもしろかったかもしれません。
アカギ 闇に降り立った天才(17~36巻)/福本伸行
前回の感想はこっち。鷲巣麻雀六回戦から最後まで。今回もリスペクトして長く感想を書きます。結論から言うと、福本漫画で一番おもしろかったですね。それどころか、オールタイムベストクラスでした。こんなどちゃくそおもしろい漫画がアマゾンで低評価つけられまくってるの悲しいぜと言いたいところですが、これを月間連載や単行本待ちで読まされたら私もキレてたと思うので、これはもう仕方がないと思う。アカギは「自分の能力だけで生きる」怪物であり、ゆえに本作がフィクションであるがゆえに発生する作者による操作(=天運≒ご都合主義)に立ち向かう必要があるんですね。自分の能力だけでやっていることを誇る男が「実は運がいい」というのは許されない。運や作者と言ったメタい領域に依って立ってしまった瞬間、彼はただのピエロになってしまう。アカギにとって、鷲巣は作者を降ろしてぶん殴るためのイタコであり、メタ領域に手を突っ込むためのポータルだった。二人の闘いは登場人物対作者と代理戦争であり……が、そんな綺麗な構図は二人の本気の闘争の前ではいともたやすく焼け落ちてしまうんですよ。積み重ねられた彼らの思考や感情がメタ構造を全て焼き尽くし、作中の全てを彼ら二人の闘いとして、登場人物と作者でも、合理と豪運でも、物語と設定でもない、他に比喩しえない「アカギ」と「鷲巣」の戦いとして、消費し尽くす。これが本当によかった。素晴らしかった。アカギの、ゲーム、人、メタという果ての無い能力拡張の先にあるものは、ほかならぬ「鷲巣」という存在だった。「神を降ろすための神の道具」であった鷲巣さまが、神こと作者を引きずり下ろし逆に神を自分の道具にしてしまう展開はボロボロ泣きました。地獄編とかも当時辟易と失笑で迎えられたと思うんですけど、私はもう鷲巣さまのかっこよさにやられてボロボロ泣きました。いやもうね、「血など空になっても生きてはいけるが、気概を失ってはそれこそ死!抜け!」が本当によくてですね。これ、一件、勝負というものへの誠実さを示した台詞見えるんですけど、実はそんないいもんじゃなくて、まさに言葉通りの「気概がなくなった方が死亡率が高い」という狂った合理に基づく小賢しい計算なんですよ。潔さのかけらもない。かっこよすぎる。あと、死闘の中で世界の全てを隷属させ神の如き存在となった二人が、それぞれ世界の中で生きる等身大の個人へと還ってゆくエピローグも抜群に好きですね。実に粋だと思う。いやーおもしろい漫画だった。