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ミチルはベレー帽の似合う可愛い女の子だった。
高校生の時に軽音楽部に入っていたというその手には、いかにも子供の頃からピアノを習っていたというようなスラリと伸びた指が付いていた。
短く切った髪からぴょんと出た耳の、ムダのない耳たぶにはいつも小さなピアスが左右にひとつずつ付いていた。
月が変わるごとに穴をあけ、高校を卒業する頃には耳たぶにリング状のピアスがびっしりと連なっていたような私とは、たぶん人間という生き物に生まれた以外はぜんぶ違っている。
そんな私たちが出会ったのは仕事場だった。
最初に私が勤めていて、途中からミチルが入社してきたのだ。
“何もかも違う”、そう思っていたある日、会社の飲み会で話をする機会があった。
「そういえば、あんまり話したことないよね」
そんな会話からはじまり、お互いにいろいろ話をした。
映画『キンキーブーツ』が好きなことと『タイタニック』でまったく泣けなかったという共通点があることがわかり、急激に親しみがわいた私たちは家賃節約のためにルームシェアすることにした。
リモートワークが定着し、たまにしか会社へは行かなくなった最近はちょうどミチルと私の出勤日が入れ違いになっていた。
ミチルが出勤した日の夕方、ひとりの男性がたずねてきた。ミチルの彼だった。
音楽の趣味も着るものも好きな食べ物もまるで違うミチルと私だったけれど、困ったことに男性の好みは一致しているらしい。
「たぶんもうすぐ帰ってくると思います」
そう言って私は彼を部屋に入れた。少しだけイケナイことを考えながら。
「ミチルとはどこで知り合ったんですか?」
「ミチルのどういうところが好きなんですか?」
そんなことはそれほど興味はなかったけれど、間を持たせるためにあれこれ話を振った。
何もかもが違うミチルと私のことを、なぜだか彼はどこか似ていると言った。
いつもの時間になってもミチルはまだ帰ってこなかった。やがて話すことがなくなった私たちはよくあるように、よくあることになった。ミチルのベッドで。
結局その日はミチルの帰宅を待たずにに彼は帰っていった。残業をして帰宅したミチルには彼が来たけれどすぐに帰ったと伝えた。私ならそんな時、すぐに良からぬ想像をしてしまうけれど、まったく人を疑うということをしないミチルは私の言葉をそのまま受け入れた。そんなミチルに対して私の中にかすかに嫉妬心が芽生えるのがわかった。
休日にはミチルと彼は外で会うのでこの部屋に来ることはないのだけれど、ミチルのいない日に彼は来るようになった。そして私たちはその度にミチルのベッドですごすようになった。
相変わらず彼は、何もかもが違うミチルと私が似ているという。それならミチルじゃなくてぜんぶ私だけでいいはず。ミチルにはもう1ミリも彼に触れさせたくなかった。
私はいつしかミチルが消えてしまえばいいと思うようになっていた。
ミチルを“消す”か、私が彼とどこかへ逃げるか。
私は自宅でリモートワーク、ミチルが出勤の日、寝ぼけ眼の私は身支度を整えているミチルの顔を正面からじっくりと眺めた。確かにどことなく私たちは似ているような気がした。
「ねぇミチル、そろそろ代わってくれない?私と」
そう言って私は鏡の前のミチルの手を力いっぱいこちら側へと引っ張った。
「ミチル、ごめん。もう彼も私がもらうからね」
そして私は身支度を整え会社へ向かった。
市販のピクルスを食べ終わった後の酢を捨てずに再利用します。
パプリカを1センチ幅ほどに切り、ピクルスの液の中に入れて一晩漬けたら、色もきれいでフルーツみたいな歯ごたえのピクルスのできあがりです。
お好みでレモン果汁やミントをたすと爽やかで夏のおつまみにもぴったりです。
*メーカーではピクルスの液の再利用は推奨されておりませんのでお試しの場合は自己責任でお願いいたします。