真智子
「大学は勉強したいから行くわけじゃないよ。聞こえのいい学校に行って、お茶とお花を習って、いいところに就職しそうだとか、家がお金持ちだとか、そういう結婚相手をみつけるための準備期間だよ。専門学校なんか行ってどうするの?」
高三の時に真智子がそう言った。
「え?大学を卒業したらやりたい仕事とかないの?」
「そんなもんないよ。だって働きたくないもん」
花嫁修行という“昔の言葉”は聞いたことはあるけれど、今の時代にそんなことを真顔で言う真智子の声がハンマーのように私の頭上に振り下ろされた気分だった。
衝撃のあまり言葉を返せず、その後にどんな会話をしたのか全く覚えていない。
やりたいことを仕事にして、そんな中で出会ってお互いを理解や尊重、尊敬し合える人と結婚をして…というのは全速力で白馬に乗った王子様をとっ捕まえに行こうとしている真智子以上に、ひょっとしてお花畑のような考え方だったのだろうか。
あれから20年。
真智子は絵に描いたようなしあわせの風景の中で何不自由なく暮らし、私はと言えば今夜も自分のためのおつまみのことを考えている。
今夜のおつまみは
【鴨ネギピンチョス】です。
=材料=
合鴨のパストラミ
ネギの白いところ
塩
オリーブオイル
=作り方=
1.ネギは4〜5センチに切り、パストラミを5ミリ程度の厚さにスライスします。
2.オリーブオイルをひいたフライパンでネギは塩を振って焼き、パストラミは脂を溶かす程度に両面を軽く焼きます。
3.2を重ね、つまようじを刺します。
鍋物も湯豆腐もラーメンもお味噌汁でも、人生の中でネギを重要視したことはありませんでしたが、鴨が背負ったネギはとろりと甘くて最高です。
ああ、おいしいおつまみに、今夜もごきげんです。