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創作おとぎ話 うさかめサイコロジー え~と干支篇<連続3日掲載:後篇>

前回までのお話) 神様が企画した『干支えと決定戦』は大ヒット。いろいろな動物が我こそは一番乗りにとレースに参加。みんな日の出の神社を目指して、暗いうちから走り始めました。さて、一番にやってきたのは誰でしょう?
 
 
東の空がしらむ頃、最初にやってきたのは、あののんびり屋のウシでした。
神社の門の前につくと、まだ日の出にはほんの少し早いのか、門は閉じたままです。
ウシは、足元の夜露よつゆれた草を食べて、ちょっと一休み。モグモグ、モグモグ、反芻はんすうします。
 
すると、神社の奥の山のいただきから、一条いちじょうの光が差し込みました。
日の出です。
神社の門がギ~~~と音を立てて開き始めました。
 
と、突然、ウシの背中から黒い影がヒュッと地面に飛び降りました。飛び降りたかと思うと影はスルスルッと開きかけた門の隙間すきまに入っていきました。
 
神様:
おおー、一番乗りはネズミか。小さいのに大したもんじゃ。約束通り、干支の始まりをネズミとしよう。
 
ネズミ:
ありがとうございまチュウ。息を切らせて走ってきたかいがありました。はぁ、はぁ。
 
ウシ:
あれぇ、ネズミさん、いつの間に。小さくて全然気がつかなかったよ。じゃぁ、自分は2番だね。こんなに早い順番に入れたなんて、モーうれしいなぁ。
 
続いて来たのは、筋トレできたえた体でもうダッシュしてきたトラ。次いで、油断ゆだんすることなく休まずねてきたウサギが4着に入りました。そこからしばらくたって、リュウが順番なんか気にしていないかのように悠々ゆうゆうと空を飛んできて5着。空のリュウと歩調を合わせるかのように地面をはってきたヘビが6着。鼻息はないき荒かったウマはスタートゲートで出遅れて、ヘビとは3馬身差ばしんさの7着でゴール。続いて、たっぷり睡眠をとって体調をベストに仕上げてきたヒツジが8着。
 
そのあとは・・・なんだかめながらやってくる一団が。
 
イヌ:
あんな狭い一本橋の上で後ろから押すことはないだろ!
 
サル:
あんなに恐々こわごわ渡っていたら、日が暮れちゃうよ!むしろ押してあげたんだから感謝して欲しいよ。まったく、臆病者おくびょうものだなぁ。
 
イヌ:
朝はしもりて、木の一本橋は湿っててすべりやすいんだよ!確かめもせず、突っ込んでいったらみんな川に落ちてずぶぬれさ。先頭には、後ろの人が気づかない苦労があるんだよ。
 
ニワトリ:
まあまあ、無事に渡れたんだからもうケッコーでしょ。ほら、ゴールが近いよ。集中、集中!
 
 
【ワンポイント心理学】
人は他人が失敗したり、上手くいかないときの理由を「その人の性格のせい」と考え、自分が上手くいかなかったときの理由を「状況のせい」と考える傾向にある。これを「行為者-観察者バイアス」という。

 
大の仲良しだったサルとイヌはレースの途中から大喧嘩おおげんか。ニワトリが間に入って、サル・トリ・イヌの順で9・10・11着が決まりました。
でも、ゴールの後もサルとイヌの喧嘩は止まず、“犬猿けんえんなか”となってしまったのだとか。
 
さて、最後のひとわく。駆け込んできたのは、イノシシ。なんと、猪突猛進ちょとつもうしんに突っ走り過ぎて、隣の山まで行ってしまい、引き返してきたのでとんだ時間を食ってしまったのだそう。
 
その後、続々といろんな動物たちが続き、神社の初詣はつもうで大賑おおにぎわい。神様はしてやったりとにんまり顔です。
 
神様:
みなさん、あけましておめでとう! 元旦がんたんから大勢でお参りをありがとう。
おかげで、今年はいい年になりそうじゃ。
先着12匹のみなさんは、これから1年ずつ、しっかりリーダーをお願いしますぞ。
それぞれ1位から順に漢字をさずけましょう。
 
うしとらたつうまひつじさるとりいぬ
 
自分の順番を間違えないように。しっかりと覚えておくのじゃぞ。
それでは今年は・・・「卯」(ウサギ)からスタートじゃ!
 
ネズミ:
え~、1着の僕じゃないんでチュかぁ?
 
神様:
お前さんにはお客さんがきておるから、忙しいじゃろうと思ってな。
 
ネズミが後ろを振り返ると、怖い顔をしたネコが指をポキポキいわせて立っていました。ネズミは大慌おおあわてで神社から出ていき、ネコは猛スピードで追いかけていきました。
 
これがきっかけで、ネコはネズミをみると追いかけ回すようになったのだとか。
 
 
そして、もうひとつ。
 
忘れてはいけないのが、カメ。
だって、このお話のタイトルは「うさかめ」ですからね。
 
カメは、日が暮れる頃、ようやく門の前に着きました。
 
カメ:
どうせ、いつもビリなんだ・・・。
 
神様:
小さな身体で、がんばってここまで来たのは、すごいことじゃよ。
ねばり強さは、スピードとは違った、またひとつの強さじゃからな。
自分の強みを大事にしなさい。
お前さんには、お前さんの成長のペースがある。
ゆっくり、じっくり、着実に進むがよい。
十二支じゅうにしにはなれんかったが、お前さんには一万年の時間をさずけよう。
カメは万年じゃ。ちょっとぐらい遅くても気にするでないぞ。
みんな自分の個性がわかったここからが本当のスタートじゃ。
 
 
 
(カメが力強く顔を上げたところでお話は、お・し・ま・い)


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