創作おとぎ話 うさかめサイコロジー 運動会篇<連続3日掲載:後篇>
(前回までのお話) 動物村の運動会『オウリンピック』が始まった。様々な競技が行われる中、「つなひき」では優勝候補筆頭のゴリラチームがまさかの敗退。これから始まる「うさぎ跳び」ではウサギチームが優勝を狙うが、そこに待ち受けていたものは・・・。
「うさぎ跳びは膝に悪いというので棄権します」
なんと棄権が相次ぎ、結局エントリーしたのはウサギチームだけ。
ウサギチームの不戦勝という形で、この競技は何とも消化不良で終わってしまいました。
優勝したウサギチームにはリンゴの王様「王林」が贈られましたが、みんな長い耳をたらしてがっかりした様子です。
みんな思い切り跳ね回りたかったのでしょう。
ウサギチームには他の競技でがんばってもらいましょう。
さて、様々な競技が行われてきた『オウリンピック』ですが、早いものでもう最後の種目となりました。
最後は、屋内会場で行われる「カーリング」です。
ここでのカーリングは「ストーン」ではなく、「動物自身の体」を使ってサークル内のより中心近くにポジションしたチームが勝ちとなります。
決勝は、氷上の王様「皇帝ペンギンチーム」と内向型で熟慮を得意とするカメチームです。
カメチームは甲羅がストーンみたいなものですからカーリングに最も適しているといっていいかもしれません。
一方の皇帝ペンギンチームは、パワーで勝ち上がってきました。
大きな体のお腹を下にして、魚雷のように氷上を一直線にすべって相手チームを弾き飛ばしていく様は、ダイナミックでとても見ごたえがあります。
さあ、決戦の火ぶたが切って落とされました。
戦いは一進一退。
お互いに、サークル内にチーム員を送り込んでは相手にはじき出されてしまします。
ついに最終エンド。
カメチームはここで、長老ゾウガメのジョージ(前回登場キャラ)を投入。
動物村のカーリングはメンバーチェンジが可能です。
ジョージが氷上をすべってサークルの中央に陣取ると、まるで小山ができたかのようなどっしりとした不動感があります。
皇帝ペンギンたちが次から次へと果敢にアタックしていきますが、ジョージはびくともしません。
ついにジョージはサークルの中心を守り切り、カメチームの優勝!
長老は氷上で一人ポツンと居座り続けたその孤高の姿から「ロンサム・ジョージ」と呼ばれることになったとか、ならなかったとか。
※現実世界の「ロンサム・ジョージ」はガラパゴス諸島の最後のピンタゾウガメの愛称でした。残念ながら2012年に永眠されています。合掌。
勝ったカメチームは大喜び。
でも勝利の証「王林」をめぐってちょっとした争いが発生しました。
「勝利に一番貢献した自分が、一番大きな王林をもらうべきじゃない?」
なんとチーム員それぞれが口々に言いだしたのです。
「全試合の基本作戦を立てたのは自分だから自分が一番貢献している」
「いや、自分のショット成功率が高かったからこそ決勝まで勝ち上がってこれたんだ」
「いやいや、氷を磨いて滑るようにした自分の献身的な働きがあったればこそだよ」
「いやいやいや、ムードメーカーの自分がいたからさ」
【ワンポイント心理学】
人は自分の視点で物事を考えるため、思考の偏りが生じる。チームで作業を行った場合、自分が一番貢献度が高いと過大評価する傾向にある。これを「自己中心性バイアス」という。
「まあまあ。みんなそれぞれの役割を果たした結果、勝利したんじゃから、誰が一番ということもなかろう。このチームで一緒に戦えたことが一人ではできない素晴らしい体験じゃないか。その素晴らしさをリンゴの大きさで語るのはあまりにも釣り合わんよ」
そう言って、ジョージは一番大きな王林を食べてしまいました。
話を聞いてカメたちは自分を小さく感じたのか、首をヒュッとすくめていったん縮んだあと、それぞれ目の前の「王林」を手に取りました。
そしてみんなで笑いながら、今この瞬間の喜びをかみしめました。
動物村の『オウリンピック』はこれで全種目終了。
様々な動物たちがそれぞれの個性を活かせる競技で勝利をつかみ、結局、「王林」は誰に偏ることなく結果的に分散、山分けとなりました。
空を見上げると、いわし雲はすでに遠くのかなたへと泳ぎ去り、あたりは穏やかな夕焼け色に染まっています。
西の山あいには、巨大な「王林」のような太陽が輝きを増しながら沈もうとしています。
おしまい
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