創作おとぎ話 うさかめサイコロジー リュウグウ篇<連続3日掲載:後篇>
(前回までのお話) カメの石ちゃんがリュウグウから持ち帰ったカプセルを開けると白い煙が出てきて、石ちゃんはおじいさんになってしまいました。そんな石ちゃんの目に入ってきたのは真っ暗な山に光るまぶしい光。行ってみると、そこには白く輝く竹が・・・。
石ちゃんが光る竹を割ってみると、中から・・・真っ白なもふもふタオル?
いいえ、それは白ウサギ。
石ちゃんと月まで競争をしたあの白ウサギでした。
竹筒の中にギュと収まっていた白ウサギはモゾモゾと出てくると
「あ~苦しかった。どなたか知りませんが、見つけてくれてありがとう。ようやく地球に帰ってこれました」と元気な声で言いました。
「えっ、あっ、キミはあの白ウサギ? ・・・その顔、間違いない!ボクだよ、ボク!月まで競争した、隣の石ちゃん、カメの石ちゃんだよ!」
「ああ、石ちゃん・・・え~、どうしたの?おじいさんになっちゃって!」
「カプセルを開けたら、こんなんなっちゃたんだよ。・・・・それより、ここは未来の世界らしい。動物村もすっかり変わってビルだらけ。知っている人もきっと誰もいないよ・・・。そう思うと、自分ひとり取り残されたようで、悲しくて・・・。でも!もう独りじゃない!。キミが来てくれたから。こんなにうれしいことはないよ!キミがいてくれるだけで生きる勇気が湧いてくるよ。だってキミがいるんだもん」
いつも無口で物静かな石ちゃんがなんだか饒舌です。そしてまだまだ話しを続けます。
「姿はおじいさんだけど、カメは万年だからあと何百年も生きるよ。まだまだ若造さ。そうだ、山のふもとまで競争しようよ!なんだか、今日は勝てそうな気がするよ!エネルギーがどんどん湧いてくるんだ」
【ワンポイント心理学】
心理学者のエレン・ランガーが、高齢者に対して20年前の生活環境を再現した設定の中で1週間暮らしてもらう実験をしたところ、身体能力や記憶力に関するスコアに向上が見られたという。心の状態が身体的な現実にも影響するということですね。
ふたりは、ふもとを目指して駆けだしました。
もちろん、白ウサギは圧倒的な速さで山を駆け下ります。
「なんだ、石ちゃん、全然こないな。それではちょっとここらで一休み・・・」
さて、ここからの展開は、もうお分かりですね。
すっかり寝過ごしてしまった白ウサギは、起きたときには時、既に遅し。
カメの石ちゃんが一足先にゴールインしていました。
そのあと、ふたりは海辺で満月を眺めながら、「月の競争、その後」について、あれこれと東の空が白むまで語り明かしたということです。
人生のどこかで出会い、時を経てまた再会する。
あなたにもそんな経験はありませんか?
そんな時は、時間まで巻き戻ったかのような気がします。
そして同時に身も心も若返ったかのような。
実年齢とは関係なく、人は若返ることができるのかもしれませんね。
「お~い、石ちゃ~ん、どこ行ったんだ~い。おじさんをひとりにしないでおくれ~。お~い、誰か~。誰でもいい、返事して~~~」
遠くでハヤブサの声が、青い空に吸い込まれていきました。
おしまい
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