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昨晩は福州傻瓜乾麵について片倉佳史さんと対談しました。
台湾には乾麵(gan55mian51)と呼ばれる、様々な汁無し和え麺が存在しますが、その中の一つにユニークな 乾麵(gan55mian51)があります。まず、発音についてですが、この乾麵(gan55mian51)のことをガンミェ ンと発音する日本人が多いんですが、乾燥の乾の字の発音は濁音ではありません。日本人にはこれを意識して発音するのはちょっと難しいのですが、発話時に吐息が漏れないように発音する清音のカンです。このユニークな乾麵というのは福州乾麵(fu35zhou55gan55mian51)、あるいは”福州馬鹿汁無し麵”の意味がある福州傻瓜乾麵(fu35zhou55sha21gua55gan55mian51)と呼ばれる、中国福建省福州にルーツのある福州系の住民が台湾で考案した乾麵です。どうしてユニークなのかと言うと、注文したら、白麵(bai35mian51)と呼ばれる ” かんすい ” の使われていない中国北方系の白い麵の細麺が茹でられ、ラードを混ぜた薄い色の醤油がちょっと入っただけのお椀に入れられ、上に薬味の刻みネギが振りかけられただけのものが出されます。その後にお客さんが自由にテーブル上の各種調味料を加えて、掻き混ぜて食べるものだからです。つまり最終的に味は自分で決めて、自分で作るんです。福州乾麵、福州傻瓜乾麵の専門店もありますし、色々な麵料理を販売する一般麵食堂のメニューの中にもある場合があります。
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テーブル上の調味料は充実している店もあれば、種類の少ない店もあります。 調味料の種類が多いところだと、烏醋(wu55cu51)=ウスターソースに醤油と酢を混ぜたようなソース、醬油(jiang51you35)=一般的な”しょうゆ”、白醋 (bai35cu51)=お酢、辣油(la51you35)=ラー油、辣渣(la51zha55)=ラー油を作る時にカスとして残る油で揚げた唐辛子、辣椒醬(la51jiao55jiang51)=中華チリソース、香油(xiang55you35)=ごま油とサラダ油のミックス、胡椒 (hu35jiao55)=白こしょう、蒜泥(suan51ni35)=おろしニンニク、蔥花 (cong55hua55)=刻みネギなどが用意されています。
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福州乾麵 、福州傻瓜乾麵の食べ方を説明します。
自分の好きな調味料を全部入れて、掻き混ぜて食べてもいいし、何も調味料を加えないで、出されたままのものをまず食べてみて、次に烏醋を加えて食べてみて、次にまた別の調味料を足してから食べたり、次々に味を変えては少し食べを繰り返してもいいと思います。僕がよくやる一番好きな食べ方は蛋包湯(dan51bao55tang55)か蛋花湯(dan51hua55tang55)といった玉子入りスープを頼んで、スープの中の半熟玉子や掻き玉子を取り出して、麵の上に乗せて、烏醋、辣渣、辣椒醬、辣油、蒜泥などを加えて、一緒に掻き混ぜる方法てす。
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また、乾麵だけでなく湯麵(tang55mian51)=スープ麵も販売する店では、湯麵を頼んで、それと一緒に空のお椀ももらって、まず湯麵=スープ麵として少し味わってから、中の麵を全部取り出し、別のお椀に入れて、テーブル上の各種調味料を入れて、掻き混ぜて福州傻瓜乾麵として食べるお客さんもいるそうです。
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福州乾麵の別名、傻瓜乾麵の傻瓜(sha21gua55)とは華語(共通中国語)で馬鹿の意味ですが、この麵料理の名称の由来には以前からいろいろな説があります。例えば、陽春麵(yang35chun55mian51)=中国式かけそばより陽春=具が何もない、こんな何も入っていない麵は馬鹿しか注文しないからとか、何も入っていない麵を出されたら、普通は騙されたと感じるはずで、こんなのは騙される馬鹿が食べる麵だとか、ある有名な福州乾麵の店の近くに有名な進学校があり、そこの男子生徒がよく麵を食べに来ていたけど、生徒は皆んな制服で同じスポーツ刈りの髪型をしているので、誰もが同じに見えてしまい、店主はいつも誰から代金を受け取ったか、まだ受け取っていないかがわからなくなっていたらしく、生徒たちから「あの馬鹿な親父のいる麵屋」 と呼ばれていたからとか、また、お客さんが麵を注文する時、台湾語で煠寡焦麵 ! (sa'h21koá44ta33mī33)=汁無し麵をちょっと茹でて!と言って頼んでいたのが、台湾語の煠寡と華語の傻瓜の発音が似ているので、いつの間にか華語の傻瓜乾麵(sha21gua55gan55mian51)になってしまったという説があります。
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さて、この福州乾麵、福州傻瓜乾麵は考案者のルーツである中国福建省福州にもあるのでしょうか?もちろん全く同じ名前のものはありません。しかし、台湾の福州乾麵のようにお客さんがテーブル上の各種調味料(辣椒醬、香油、蝦油など) を何種類か自由に振りかけて、掻き混ぜてから食べる拌粉乾 (ban51fen21gan55)と呼ばれるシンプルな極太ビーフン料理があるそうです。また東マレーシアのサラワク州、つまりボルネオ島北西部にあるシブという名の都市には中国福建省福州出身の華人系の住民が多く、その土地には乾盤麵(gan55pan35mian51)と呼ばれる乾麵があるそうです。ラードと塩水と何枚かのチャーシューだけが入ったシンプルな汁無し麵にお客さんの好み で紅麹と餅米から作られた米焼酎やマレーシアの調味料、サンバルソースやブラックソイソースをかけ、掻き混ぜて食べるそうです。
福州乾麵の専門店や有名店は台北市内の小南門(xiao21nan35men35)、南機場(nan35ji55chang35)の周辺に多いです。南機場には観光夜市があり、その夜市の中に福州乾麵や福州麵(スープ麵)を売る店が多いのですが、経営者の多くは台湾人で、福州人ではないそうです。ただし、元々南機場には福州から移住した人が多く住んでいて、その人たちを目当てに台湾人が福州麵の看板を掲げて商売をしているんだそうです。
小南門近くには台北に住む外国人を管理する移民署があります。滞在ビザの相談や申請、ビザや滞在許可証の受け取りに行った帰りに必ず福州乾麵、福州傻瓜乾麵の専門店に寄って、必ず福州乾麵を食べてから帰宅するという習慣を持つ在台北日本人も多いようです。そして僕もその一人です。
実は僕の妻の父親(故人)も福州からの移住者で、家庭内でよく白麵を自分で茹でて、テーブルの上にある前日の残り物の各種のおかずを少しづつ取り分けて、麵の上に乗せて、掻き混ぜてから食べていました。スープ麵ではなく、麵を茹でただけのものに後から様々なものを入れ、掻き混ぜて食べるのは福州人の食文化なのかもしれませんね。