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台湾在住作家、片倉佳史さんのyoutube番組でゲストとして、台湾の揚げ物料理について話しました。

https://www.youtube.com/watch?v=FxG9ZQrhZvI

 台湾の食堂、屋台、家庭内では、衣を付けて揚げる揚げ物を食べる機会が割と多いです。日本の天婦羅や揚げ物と似たようなものも存在します。小さな食堂や屋台で提供される揚げ物で台湾らしい物の一つに殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te) という物があります。これは食堂や屋台では蚵炱 (蚵嗲:ô-te) という名前で売られていることが多く、主に牡蠣(かき)=オアー(ô-á:蚵仔=牡蠣)が入った円盤状の揚げ物です。この殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te)、蚵炱 (蚵嗲:ô-te) を売る店は雲林や嘉義などの台湾西部沿岸地域の牡蠣を養殖している漁村や南部地域の台南、高雄、中部の彰化などに多く、台湾北部では少ないです。

殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te)、蚵炱 (蚵嗲:ô-te)
殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te)、蚵炱 (蚵嗲:ô-te)

 作る手順は先ず円形で少し窪んだ柄杓(ひしゃく)のような調理器具、つまり日本でお玉とかお玉杓子(おたまじゃくし)と呼ばれている物の先の丸く窪んだ部分を油に浸して、そこに卵や油、水と一緒に溶いた粉(薄力粉や片栗粉、インディカ米の粉、大豆の粉など)を入れ、これを土台にします。その上に野菜(ニラ、キャベツ、ネギなど) を細かく切ったもの、ビィチュウ(bí-chiú:米酒=料理酒として使う米焼酎)に浸しておいた牡蠣を載せ、牡蠣の上にさらに野菜を重ね、最後に溶いた粉を蓋のように覆いかぶせ、形を整えてから、お玉ごと高温の油に入れて揚げます。

 使用する食材は、地域や作る人、店舗によって違いがあります。モヤシを入れたり、 鰹節を入れたりもするし、牡蠣の代わりに豚肉(ti-bah)を使ったり、花枝(hoe-ki:コウイカ)などを使ったりもします。雲林や嘉義には海豬仔(hái-ti-á:イルカ) の肉と生姜を入れた物があります。

海豬仔(hái-ti-á=イルカ) の肉入りの殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te)

 食べる時にかけるタレも地域や店舗、個人の好みによって多少違いますが、一般的に 甜辣醬(甘辛いソース)や豆油膏(tāu-iû-ko:甘くとろみの効いた醤油)におろしニンニクを混ぜ合わせたものが使われています。

 殼仔炱 (khok-á-te/khoá-te)、蚵炱 (蚵嗲:ô-te)を売る店には他にいろいろな揚げ物もあります。例えば、オアピア = 芋仔餅 (ōo-á-piánn)、オォクエキャウ = 芋粿曲 (ōo-kóe-khiau) 、ツァイタウクエ = 菜頭粿 (chhài-thâu-kóe) 、ツウッビィトゥン = 秫米腸 (chu't-bí-tn̂g) 、ビィコー = 米糕 (bí-ko)、ティークエ = 甜粿 (tinn-kóe)、テンプゥラァ = 甜不辣 (thiăn-pú-lá) などの揚げ物です。

オアピア = 芋仔餅 (ōo-á-piánn)=タロイモ餅の揚げ物
芋粿曲 (ōo-kóe-khiau) の揚げ物
菜頭粿 (chhài-thâu-kóe)=大根餅の揚げ物
秫米腸 (chu't-bí-tn̂g) =餅米の腸詰の揚げ物
甘い米糕 (bí-ko)=甘いおこわの揚げ物
甜粿 (tinn-kóe)=お正月に食べる甘いお餅の揚げ物
甜不辣 (thiăn-pú-lá) =さつま揚げをさらに揚げた物 
揚げ物屋さんの屋台

 妻の実家では特に農暦の正月(旧正月)休み期間によく揚げ物を作って食べます。 食べ残った正月料理を二日目に揚げ物として作り変えたり、天公 (Thinn-kong) 土地公 (Thóo-tē-kong) 地基主 (Tē-ki-chú) 祖先 (chóo-sian) などを拝んで、幸運や平安、金運を願うために用意した、ホアックエ (hoat-kóe:發粿) やミィトー (mī-thô:麵桃) といった蒸しパン、そして甘いお餅「ティークエ (tinn-kóe:甜粿)」、甘くないお餅「鹹粿 (kiâm-kóe)」を薄く平らに切り分けて、衣を付けて揚げたり、サツマイモ(han-chî:番薯)やタロイモ(ōo-á:芋仔)なども薄く平らに切り、衣を付けて揚げます。また、食べ残した麵線(mī-sòann)= 素麺(そうめん)を放って置いたため、素麺同士がくっつきあっ て固まってしまったものを板状に切り分けて、衣をつけて揚げることもあります。
 
 サツマイモの揚げ物は屋台の食べ物として非常によく見かけます。特に棒状に切ったものを揚げて、フラ イドポテトにした番薯籤(han-chî-chhiam)をよく見かけます。

揚げる前の素麺(そうめん)と甘いお餅
ホアックエ (hoat-kóe:發粿=蒸しパン) や甘いお餅ティークエ (tinn-kóe:甜粿)の揚げ物

 対談中に餅(ピア:piánn)は餅米で作られたものが多いと説明をしてしまっていましたが、米や餅米で作られるものは「粿(kóe / ké)」です。客家語では台湾語の「粿(kóe / ké)」は「粄(pán)」と呼ばれます。
 餅(ピア:piánn)はお菓子やケーキ、ビスケット、パイなどの多くのものの総称です。

 甘くない餅、鹹粿(kiâm-kóe)
→在來米(インディカ米)や餅米を使って粿粞(kóe-chhè:米粉を液状にし、圧力かけて水分を抜いたもの)を作り、それに大根を短冊状に切って炒めた具を入れたら、「菜頭粿(chhài-thâu-kóe /客家語:蘿蔔粄lò-phe't-pán)」になり、タロイモを入れたら「芋粿(ōo-kóe /客家語:芋粄vu-pán)」になります。    

 台湾語発音「菜頭粿(chhài-thâu-kóe) 」の菜頭(chhài-thâu)は彩頭(chhái-thâu=兆し)と発音が非常に似ていることから、良い兆しがあることを願い、「芋粿(ōo-kóe)」はよい仕事、事業ができることを願っています。また台湾語の芋仔(ōo-á=タロイモ)には芋頭(ōo-thâu)という言い方もあり、芋頭(ōo-thâu)と好頭路(hó-thâu-lōo=よい仕事)の好頭(hó-thâu)と発音が似ていることから、大根とタロイモは縁起物とされています。また好兄弟 (hó-hiann-tī=弔う人のない魂)の祭事の際にも用意されます。

 芋粿蹺 (ōo-kóe-khiau芋粿巧、芋粿曲)
→民間信仰の占いの道具である跋桮(跋杯:poa'h-poe)の形に似せて、弓なりに曲がった形に作られたのが芋粿蹺 (ōo-kóe-khiau:芋粿巧、芋粿曲) です。伝統的な民間信仰の行事に土地の守り神や家の守り神、先祖を拝みますが、その時のお供え物に使われます。拝む時に占いの道具(神々や先祖にお伺いを立てる時に使う)、跋桮(跋杯:poa'h-poe)も使われることから、芋粿(タロイモ餅)の形も跋桮(跋杯:poa'h-poe)の形に似せて作ってあります。拝む時には子孫を守ってもらうことを願い、また、タロイモは子孫繁栄をもたらす縁起物と考えられています。

 甜粿(tinn-kóe /客家語:甜粄 thiàm-pán)
→1日水に漬けておいた餅米に水を少量加えて、臼で挽いて液体にしたものに圧力をかけ、水分を抜いて粿粞(kóe-chhè)と呼ばれる塊を作り、この粿粞(kóe-chhè)に砂糖加えてかき混ぜ、蒸しあげて作ります。春節(旧正月)にも準備されますが、大小様々な神様の誕生日の時のお供え物としてよく見かけるものです。幸せになること、神様から嬉しい話が聞けるという願いが込められています。主に天公(thinn-kong:道教の最高神、玉皇大帝)や三官大帝(sam-koan-tāi-tè:天界、地界、水界の神)など地位の高い神々、媽祖(航海・漁業の守護神)、王爺(病気治癒、航海安全、豊漁祈願などに効験のある神)、地基主(家の守護神)、土地公(土地の守り神)、祖先などを拝む時のお供え物として使われています。

 お供え物に使われる餅菓子類は非常に甘いのですが、昔は今よりもっと甘かったそうです。昔は冷蔵庫もなければ、人工保存料もないので、砂糖をたくさん入れることで、長持ちさせていたようです。道教の最高神や地位の高い神々のお供え物には甘くて、赤い色のものがよく使われます。神様から甘い言葉(縁起の良い話)が聞けることを願うという意味もあるようです。

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