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父と子の自由研究

元父兄で、私が尊敬する高校教師と彼の息子、大ちゃんが夏休みを利用して「昔の旅」を試みた。それは、大宮から熊谷までの48㎞を徒歩で旅することであった。その旅は、いくども止めて帰ろうかと思うほど、大人にとっても過酷な旅であった。

初めは、歩道の横を追い抜いて行く車の視線を気にしての旅だったが、疲労が極限に達してからは、そんな恥ずかしさも消しとんで、終には、こちらから手を振る不気味な余裕すら生まれたとか。

旅の途中、茶店?で気のいいおじさんが「土手を歩くといいよ!」と教えてくれたので川へ向かったが、そこまでなんと2㎞。疲れきった体には余程堪えたらしく「情報の選択を誤った」と、父は頭をかいた。目的地に近づくにつれ、大ちゃんは不機嫌になった。目に入るものすべてに腹立たしさを覚えるらしく、罵声を浴びせては自分を元気付けているようだった。そんな息子が、父には妙に愉快だった。それにしても、先程から、足はまさに棒のようで膝が思うように曲がらない。

13時間かけて、やっとたどり着いた熊谷の地。兼ねてからの約束だったかき氷を大事に食べ、銭湯で塩をふいた体を丹念に洗った。きっと、ここでは、父と子の仄かな一体感が周りを優しく包んだに違いない。

父と子は、帰りを急ぐことにした。大宮までの所要時間は電車で40分。片道280円の切符を手にした大ちゃんは、いみじくも言った。

「父ちゃん、安すぎるよ‼️」


「ああ、行って良かった!」

父は、仄かに燃えるキャンプファイヤーの残り火をじっと見つめながら、こう語ったのでした。

(See you)