【読書】『ミンタㇻ1 アイヌ民族 27の昔話』
北海道新聞の連載をまとめたものです。Webでも一部見られます。子ども向けのようで、それだけではない。『ゴールデンカムイ』のファンにもおすすめの一冊です。
パッとみてわかる! アイヌの美術
この本は小笠原小夜さんが絵を担当しております。これだけでも手に取る価値がある! そう言い切りたいほど美しい。
ともかく彼女の会は、よいもの。語彙が尽きるようなところはある。力強くて、シンプルなようですごく計算されていて、見ているだけで何か熱いものが沸いてきます。
彼女の制作環境を見たわけではないけれど、しみじみと思えるのが、アイヌアートとベクタ形式の相性の良さ! これは以前、日本、中国、朝鮮半島の作品と比較して思ったのですけれども、こういう東アジアの芸術って基本が墨と筆だと思えるのです。ゆえに見た瞬間「これはラスタ形式」となる。一方でアイヌは線がはっきりとしていて明瞭で、Illustratorと相性抜群だと思えます。この直感的なちがいが大きいと思います。
彩色も異なる。『ゴールデンカムイ』アニメの3期を見ていて思いました。土方若年期の京都と、アイヌの色彩はちがう。和人の色彩って、特に江戸期以降はよくいえばシック、悪く言えば地味なのだなと。
そういうシックでラスタ形式と、アイヌはちがう。彩度も明度も高いベクタ形式だ! で、こういうアートは無茶苦茶かっこいいし元気になれる。
アイヌといえば伝統のイメージもあるし、和人が勝手に植え付けた「暗くて滅びゆくもの」というイメージがありますよね。そういうの、もういいや! 小笠原さんの元気な絵を見ていると、むしろこれから、まだまだこれから、こんな素敵なものを見逃す理由なんてないとわかる! アイヌアートはカッコいい! そういう躍動感が絵から伝わってきて、ページをめくるだけで心があたたかくなります。
そして自分が何者か、そんなこともわかった。
私は美しい人を見ると、こんなことを思います。まるで天意が筆をもち、さらさらと描き、そこから抜け出たようだと。玉を刻んだような人、つまりは玉人という表現も想像する。そう思うのは日本、中国、韓国のもの。こと時代劇が多い。具体例をあげるのであれば『麒麟がくる』の長谷川博己さん、風間俊介さん、門脇麦さん……いや大体みんな! それと『陳情令』の肖戦と王一博。これもだいたいみんな!
それって、実は私が東洋文化の中にいるからだと気づきました。筆や玉で人徳まで含めた美貌を表現していると。でもアイヌアートにはそう言おうと思わない。もっと別の表現がある。アイヌの美しい何かを形容するとき、私は筆や玉は使わないと思う。語彙がなくて、ともかく「きれい!」と「すごい!」になってしまう。
アイヌを知ることは、自分を知ること。人間を知ること。そう気付かされた。これが異文化との出会いであり、まさに人間を知ることだと。そう小笠原さんの絵を見ていて思いました。ほんとうに、綺麗なんです。凄いんです。ともかく見てください!
SDGsをアイヌから学ぼう!
絵だけでなく、北原次郎太モコットゥナㇱ先生による民話および解説もよいのです。
アイヌの民話って、なんとなくゆるーく消費されてきたような。御伽噺というか。でも、今読むと奥が深いと思えてくる。
たとえば、「何をしてもうまくいかない土地」があると出てくる。これって火山や地震多発地帯のことではないかとか。そういう生きてゆくための知恵を、民話で分け合ってきたのだろうと読み解けるのです。
それは何といっても、SDGsに関して重要ですよ!
今、先住民への接し方が世界中で見直されています。かわいそうだとか。守らなくちゃとか。そういう善意由来だけど見下すものでなくて、SDGsの知恵はむしろ先住民にあるのではないか、そう考えるというもの。
アイヌに関しては、ズバリ、これですよ!
アイヌが獲物を取りすぎたとか。何かを独占したとか。そういうことをすると、カムイがやってきて罰を加える。アイヌは寛大さを美徳とするのだと民話が伝えてきます。
屯田兵はじめ和人にも、アイヌは寛大でしたね。いろんな知恵を教えてくれた。ボロボロになって上陸した屯田兵が、アイヌから汁物を振る舞われたなんて話がたくさんある。
親切。それもあるだろうけど。北海道ではそうやって客人をもてなし、寛大であることが、生きる知恵だったのだと思えます。そこに和人がつけこみ、お人好しで愚かだと見下したことも考えていかなければならないし、それはとても悲しいことだけれども。
こういう人たちが、和人の先祖を出迎えてくれたのか。そういえばアシリパも出し惜しみをしないなぁ。そんな気持ちがどんどん広がってゆきます。
こういう分かち合いこそ、SDGsの基礎でもある。アイヌはとても先進的だ!
滅びゆくとか、そういうことはもうアイヌに言わなくていい。むしろ言っちゃダメだ。アイヌのころはそうでもなかったのに、和人がバンバンいろんな生き物を絶滅枯渇させたことを考えていかねば。
そう心底思えます。
アイヌを知ることは、私たちを知ること
こんな素敵な絵本を読める、今の子どもたちが羨ましい。そう思ってしまった。
アイヌというと、滅びゆく悲劇から入る。そういうことが当然だった時代もあると。滅びゆく人々が観光でなんかしてるよ。そういう失礼極まりない時代がずいぶんとあったわけですよね。
そんなわけなくて、こうもいきいきと生きていて、アイヌはむしろ今こそ必要で、とても素晴らしいのだと。そうわかるこういう極めて優れた本が手に取れるって、よいことだと思うんです。
本書は、昔の民話を伝えるだけじゃない。今を生きるアイヌの方のインタビューが掲載されています。こうして同じ日本に生きているのに、気づかなかったとすれば一体どういうことだろう? そう立ち止まることができる。この一冊でこんなに考えさせられてよいのか? そう思わされる見事な構成です。
アイヌのゆく道は、光がちゃんとさしている。当事者でもないし、外野からお気楽なことを書いているとは思うけれども、そう伝わってくる。すごくいい本。これはオススメです!
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