『ゴールデンカムイ』第31巻(完)
関係者のみなさま、長期連載お疲れさまでした。素晴らしい作品をありがとうございます。
ここから先は厳しいことを書きます。ご了承ください。
今後のこと
かなり熱が下がったとは思いますが、アニメ版や続報があればボチボチと。あと鯉登についてはどうしても言いたいことがある。マガジン読者の皆様、廃刊はしませんのでもう少しおつきあいください。
読後感はほろ苦く
はじめに書いておきます。読後感が『ゲーム・オブ・スローンズ』完結の時と似ています。ものすごく好きで、大団円を迎えたけれど。悪いとは言い切れないけれども、熱量がもう尽きていて、これ以上語りたいとも思えない。そんな気持ち。いや、『ゲーム・オブ・スローンズ』以上の気の抜けた感覚かもしれない。
奇跡を期待していたけれど、起きなかったということかも。とはいえ、第二次世界大戦へ向かう日本という時系列で、奇跡なんてないことはわかりきっていたではないですか。
『鬼滅の刃』のような形式も取れないし、あの作品とは違って鬼と戦っているわけでもない。あの戦争へ向かうのにdそもそもが“大団円”はありえるのか?
そこを考えてしまうと、甘ったる過ぎる終わり方に思えます。いや、尾形はああなるし、これ以上どう苦くすればいいのかという意見はわかるのですが。
描写の過不足
31巻――つまりは「佐一」で終わらせたかったのかもしれませんし、さまざまな都合はあるのでしょう。加筆も限界だとは思います。分厚い最終巻です。
加筆は納得がゆく部分が多い。新選組である土方と、薩摩隼人である鯉登。幕末好きらしい野田先生のこだわりが見えます。両者の戦闘術を踏まえた上でブラッシュアップされていて、この対決は読み応えがありました。
長生きしても結局薩摩に負ける土方には憐憫を感じずにはいられないものの、年齢差をふまえたら当然の敗北だとは思えます。
新選組時代の回想も描き込みが増えて、土方は不足がないと思えました。土方ならではの国家構想がもう少し見たかったとは思うけれども。
全体的にみて、幕末がらみの要素は充実しているのに、大正昭和へ向けていく部分が不足していると思えます。途中まではそうでもなかったし、伏線もあるので、尺が足りないのとスタミナ切れですかねえ。
ただ、鯉登は不足。土方を倒したことが彼の着地点とは到底思えない。彼の父は鶴見の野望に加担して死亡が確定しています。この先、鶴見が証人にならない過程で、ここまでやらかした罪をどう償うのか、全く持って足りません。味方が月島一人でどうにかなるわけないでしょう。この陰謀で軍艦まで沈めておいて、どう切り抜けるのか、これじゃ投げっぱなしだ。
そして鯉登は、思い出の地である樺太がソ連に蹂躙され奪われる様を見ることになります。責任者に数えられます。彼に懐いていたエノノカとチカパシは、樺太から去って北海道へ来なければなりません。故郷を半永久的に失います。それならマシで、戦争に巻き込まれ亡くなる可能性が高い。あの二人と、いるであろう子孫が無傷で戦争を切り抜けられたとは考えにくいのです。エノノカのコタンは樺太でも最北端の方だから、逃げられた確率は高いとはいえ。
そういう樺太について何も触れないというのは、どうしたって不満は募ります。
尾形はきれいに伏線回収して退場したようで、薩摩閥関連が甘い気がする。鯉登と尾形の父が親友同士という要素が、あまり生きていない気がします。
あと、榎本武揚を出しているのに黒田清隆の影が薄過ぎるとは思う。黒田はやらかしすぎてよくそういう目にあうけど。北海道をテーマにしているからには、もうちょっと黒田を扱ってもよかったのでは。
全体的に明治政治史はあまり深く踏み込んでいないとは思えます。それでも近代史ものとしては良心的な方かも。政治史を扱う漫画でもないといえばそうなんだけど。
谷垣が多産DVと突っ込まれたからといって、子の数を減らすのはやりすぎだと思います。あの年代ではあのくらいの子沢山は非現実的でもありません。それだとインカラマッの年齢がちょっと高過ぎる気がしますが。
白石が「無人島で移民を募った」設定にしたのは、決定的な無頓着さを修正したのでよいと思います。
アイヌと和人の協力についても、最善最良とはいわないけど、改善はされています。
大義か、個人の幸福か?
大団円――そう思えないとすれば、杉元もアシㇼパも、社会正義を別に追いかけていないことが大きいのかもしれない。二人が美味しいもの食べてヒンナヒンナすることから、北海道で共に暮らす決意を固めるところ。個人としての幸せはそれでいいけど、社会に何かを還元することは放棄していますよね。
といっても、ウイルクにせよ鶴見にせよ、個人の幸福を犠牲にしてでも暴力革命志向であったからには、仕方のない着地点なのでしょう。思えば杉元は、アシㇼパをジャンヌ・ダルクにすることにはずっと反対していたっけ。
それでは物足りないからか、アシㇼパが文化共生を目指す決意を語り、それを得たのは今回の旅のおかげだったという着地点には持って行っています。
おまけの4ページ漫画も、金塊があればこそ“大義”を成し遂げられたというエクスキューズにはなっているのだとは思えますが。
アイヌの権利のために戦った実在の人物と比較すると、どうしてもそこが小さく見えてしまうのは仕方ないのかもしれない。
これは『ゴールデンカムイ』だけの問題ではない。日本人の意識や年代のせいもあるかもしれない。
大義。政治的意識。こういうものへのうっすらとしたアレルギーがある。
ハピエン厨の呪い。エンディングだけでなくて、ネガティブな描写へのアレルギーのようなものを発症している受け手が多いのではないかと最近思います。若者に限った話でもなく。
複雑で伏線が入り組んでいるとか。
政治的な話題とか。
大義とか。
バッドエンドとか。
差別とか。
そういう要素をいらんもの扱いをして、ひたすらネタと軽いお笑い、萌え、エロだけ供給しろというファンダムの声って、出てきていると思うんですよね。
鶴見生存を匂わせるなんて、鶴見ファンにはサービスかもしれないけれど、私には色々ぶち壊されたとしか思えませんでした。残念です。
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